CP&X Monthly Report 2025年11月号
- 黒澤真
- 34 分前
- 読了時間: 9分
| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2025年11月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
11/04/2025
Ver:20251104-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<8セクターの勢い度>
勢い度分析25年11月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業25年9月速報をベースに算出)は全8セクター中、紙パルプ、化学、非鉄金属、窯業・土石の4セクターが上昇し、繊維、機械・輸送用機器が横ばいとなり、残る2セクターが前月比下落となった。上昇セクターが7月統計ではゼロ、8月統計で2であったが、当月は4と、この3ヵ月間では勢い度が高まるセクターが増加基調となった。

<産業景気の勢い度>
勢い度改善業種が増加、産業景気は回復局面入りに
4月に発表された米国の相互関税政策は猶予期間が設けられるなどの変更もあり、4~6月の国内生産活動にはポジティブとなった。特に6月統計、9月統計では前倒しの駆け込み需要などもあり押し上げ効果となったが、7月統計ではその反動減で減速し、7月末には相互関税分の一律15%への引き下げで合意しことを受け、9月にかけて様子見から積極姿勢に転じる業種・企業の動きがポジティブに作用したとみられる。
鉱工業出荷指数(原指数、前年同月比)では、出荷が▲1.3%から+2.1%と3ヵ月ぶりの増加となり、また在庫指数が▲2.9%から▲2.7%となり、出荷・在庫循環では調整最終局面の象限Ⅰから回復局面の象限Ⅱに入ってきている。セクター別では、機械、情報通信機械、自動車、化学、プラスチック製品が出荷プラスに転換し、電子部品・デバイスが出荷プラス基調を維持した。
この結果、8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は386.1㌽で前月比15.8㌽の上昇となり、3ヵ月ぶりに300㌽台を回復する格好となった。25年1月の戻り高値をピークにした低下基調が6月統計で5ヵ月ぶりに下げ止まりから7月、8月に底這いとなり、9月は回復もスマホやパソコンなどの前倒しの効果もあることから、経済産業省は一進一退の基調判断を据え置いている。
<ポジティブ製品>
ポリアミド系樹脂成形材料が良化、光ファイバー製品が続伸
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、染色整理、衛生用紙、紙器用板紙、か性ソーダ、カーボンブラック、窒素、プロピレン、エチレングリコール、ポリアミド系樹脂成形材料、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、合成ゴム、発泡プラスチック製品、プラスチック製機械器具部品、銑鉄鋳物、石油ストーブ、安全ガラス、ガラス短繊維製品、衛生用陶器、機械プレス、ダイヤモンド工具、軸受、クッキングヒーター、蛍光灯器具などであった。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が9%以上増加した製品をピックアップすると、織物製外衣、酸化チタン、エチレングリコール、アクリロニトリル、スチレンモノマー、合成ゴム、石けん、日焼け止め化粧品、石化用ナフサ、コークス、鋼矢板、光ファイバー製品、ガス湯沸器、超硬チップ、産業用アルミ製品、電気用陶磁器、ファインセラミックス(パッケージ)、装輪式トラクター、機械プレス、半導体製造装置、FPD製造装置、超硬工具、繊維機械、ロジック半導体、電子回路基板、プログラマブルコントローラー、基地局装置、デスクトップパソコン、ノートパソコン、小型トラック、航空機用機体部品、航空機用発動機部品などとなる。
<ネガティブ製品>
鉄鋼、建設関連の不調が目立つ
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は綿・毛織物、酢酸ビニルモノマー、キシレン、エチレン、合成アセトン、ブタジエン、ポリプロピレングリコール、プラスチック製建材、鋼半製品、普通鋼鋼帯、普通鋼熱間鋼管、普通鋼冷延広幅鋼帯、特殊鋼熱間鋼管、ブリキ、電力用電線・ケーブル、セメント、ファインセラミックス(圧電機能素子)、炭素製電極、建設用クレーン、ショベル系掘削機、研削盤、電動工具、ビデオカメラ、トランジスター、ムーブメント、精密測定機などとなる。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が10%以上減少した製品をピックアップすると、再生・半合成繊維、炭素繊維、二塩化エチレン、酢酸ビニルモノマー、フェノール、ふっ素樹脂、銑鉄、鋼半製品、普通鋼冷延広幅帯鋼、セメント、耐火レンガ、炭素製電極、炭素製品、建設用クレーン、プラスチック加工機、旋盤、専用機、金型、精密測定機、カメラ用交換レンズ、リチウムイオン蓄電池、小型乗用車、軽トラックなどが挙げられる。
<勢い度のサイクルと株価>
インフレの企業収益へのプラス効果も循環物色が鍵
株式市場はファンダメンタルズによるモメンタム相場ではなく、外国人主導の需給相場となっている。株価は大局的には地政学的リスクが最大の変動要素であり、名目値での変動要因が大きい。日銀による金融引き締めペースは緩慢ではあるが、これは物価上昇率が2.5%超にあり、賃金の持続的な引き上げ基調によって今後の持続的な物価上昇の可能性が高まり、日本市場がグローバルスタンダードに適合する市場になったことによる組み入れ比率の回復が背景にある。
10月の株式市場は日経平均株価が前月末比16.64%、前年同月比では34.11%と大幅に上昇したのに対し、TOPIXは前月末比6.19%、前年同月比23.61%の上昇となった。時価総額ベースの大きな銘柄の影響が大きな日経平均株価の上昇率が極めて高いことも、外国人主導の相場であることを表している。
業種別株価指数でみると前月末比での上昇率は非鉄が26.81%、電機17.53%、精密12.28%と、TOPIXの上昇率と比べ倍以上の上昇となり、株価急騰の背景には米国のマグニフィセントセブンのようにAI関連のフジクラを筆頭にした電線株やJX金属の半導体材料関連、アドバンテスト、東京エレクトロンなどの半導体製造装置関連の一部の銘柄が牽引しいていることもある。
“勢い度分析”では数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行っている。足元の国内産業景気は底這いから持ち直し基調の象限Ⅰから脱し、回復局面の象限Ⅱに入ってきており、継続的な物価上昇を背景に企業収益、ファンダメンタルズの押し上げ効果の可能性が高まった。前月に指摘したように株価は業績相場へ移行し上昇基調となる可能性が高まり、循環物色が形成できると持続的な株価上昇が期待できよう。“勢い度分析”と株価の関係性から長期的には株価の上昇基調を示唆することになる。

<勢い度分析による投資戦略>
関税交渉の進展による企業家心理の好転も
製造工業生産予測指数からみると、9月の予測指数の実現率は▲0.3%と、8月の▲4.0%から改善している。情報通信機器においてウィンドウズ10のサポート終了に伴う一時的な要因があるが、米国との関税交渉の進展による効果が出始めたとも言える。
生産予測指数は10月が+1.9%(従来は+1.2%)、11月が▲0.9%となった。10月は電子部品・デバイスが+7.6%、化学が+5.3%、輸送用機器が+3.4%と牽引し、情報通信機械は▲6.6%と反動減を織り込んでいる。11月は非鉄が+6.5%、機械が+4.7%と産業景気を牽引するが、電子部品・デバイスが▲8.6%と反動減を見込み、情報通信機械が▲4.1%と続落を見込んでいることで、産業景気全体を押し下げることになる。
個別製品での動きをみると、景気の先行指標となる伸銅製品の出荷が4ヵ月連続で前年同月比プラスとなり、回復初期の象限Ⅱから、意図的な在庫の積み上がりによって象限Ⅳに進んだ。遅効性のある研削砥石が出荷+1.0%だが増加を回復し、在庫が▲3.2%となり、回復象限Ⅱと持ち直し基調になった。国内産業景気の出荷・在庫循環は良化の方向に向かい始めており、関税に伴う反動減や景気減速リスクが今後の回復度合いを決めることになるが、従前よりは明るさが増しつつある。長期的にみると米国の「関税のある経済」に対応するサプライチェーンの再構築の進展などでの持ち直しが期待できる。なかでも日本企業が過半のシェアを握るAI関連需要の部材や電力インフラ、造船関連などにチャンスがありそうだ。
今後のポイントは、前月に指摘したAI関連のバリュエーション面での米国株に対する割安感が解消した後の動きにあることは言うまでもない。フジクラが米国の株価のけん引役であるマグニフィセントセブンの予想PER並みになったと指摘したが、それは今26/3期予想ベースの数値であり、来期以降の利益成長性で再び割安感が出る余地もある。現状ではAIデータセンターやAI半導体部材の営業利益への貢献度がまだ30%以下の企業が多い。半導体レジスト大手の東京応化工業ではAI半導体等での営業利益貢献度が30%を超えたところであり(筆者推定)、半導体シリコンウエハーでは売上数量に占めるAI半導体向けの比率は10%未満(信越化学工業)というのが実態である。


補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。



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