CP&X Monthly Report 2025年9月号
- 黒澤真
- 9月2日
- 読了時間: 10分
| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2025年9月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
09/02/2025
Ver:20250902-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<セクター勢い度と産業景気の勢い度>
上昇セクターが無くなる
勢い度分析25年9月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業25年7月速報をベースに算出)は全8セクター中、繊維が横ばいとなった以外、残る7セクターが前月比下落となり、上昇セクターがゼロとなった。

4月に発表された米国の相互関税政策がその後、猶予期間が設けられるなどの変更もあり4~6月の国内生産活動に混乱をきたし、サプライチェーンの違いでその対応も異なった動きとなった。前6月の統計ではその動きがポジティブ方向に一気に噴出したとみられたが、当月統計ではその反動が出た格好となった。
鉱工業出荷指数(原指数、前年同月比)では、6月の出荷が+3.8%から7月には▲2.1%と急落した。セクター別の出荷が前年同月比プラスとなったのは、電子部品・デバイス、情報通信機械の2セクターのみとなり、輸送用機器(自動車を含む)の出荷が同▲5.5%と前月の同+5.8%から急落し、電機、機械なども急ブレーキがかかるなど、米国の関税対応によって激しい動きとなったことが見て取れる。
この結果、8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は360.3と前月比111.3㌽の大幅な下落となり、2ヵ月ぶりに300ポイント台にまで低下した。25年1月の戻り高値をピークにして以来の低下基調が前月に5ヵ月ぶりに下げ止まりとなったが、その持続性は持ち越しとなった。鉱工業在庫指数(原指数、前年同月比)は▲3.1%から▲2.5%となり、出荷・在庫循環からは拡大局面の象限Ⅲから底打ち象限Ⅰに戻った格好となり、需給バランスを崩すまでには至っていない。日米間で相互関税の軽減で合意しているが、まだ確定的な状況ではない部分もあり、在庫率指数が前年同月比では+1.4%と増勢に転じたことは要注視となる。そのような状況下で、経済産業省も一進一退の基調判断を維持している。
<ポジティブ製品>
か性ソーダ、ポリスチレンが良化、光ファイバ製品が続伸
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、再生・半合成繊維、か性ソーダ、アクリロニトリル、ポリスチレン、普通鋼冷延電気鋼帯、電気銅、電気溶接棒、ファインセラミックス(圧電機能素子)、炭素製電極、道路用コンクリート製品、複写機、鉛蓄電池、ガスメーター、ムーブメント、クロックなどであった。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が7%以上増加した製品をピックアップすると、織物製外衣、酢酸ビニルモノマー、フェノール、日焼け止め化粧品、光ファイバー製品、ガラス長繊維製品、遠心力コンクリートパイル、農機具、印刷機械、マシニングセンター、機械プレス、FPD製造装置、産業用ロボット、繊維機械、複写機、自動販売機、半導体・IC測定機、メモリー半導体、コネクター、電子回路基板、アルカリ電池、プログラマブルコントローラー、基地局、デジタルカメラ、カーオーディオ、配線器具、電子・電動玩具、デスクトップPC、ノートPC、航空機用機体部品などとなる。
<ネガティブ製品>
アルミ関連製品が悪化、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートが出荷減に
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、ニット製製品。乳幼児用紙おむつ、複合肥料、純ベンゼン、スチレンモノマー、エチレングリコール、合成アセトン、ポリエチレン、合成ゴム、合成洗剤、水系合成樹脂塗料、印刷インキ、工業用ゴム製品、プラスチック製機械器具部品、プラ容器、粗鋼、鋼半製品、普通鋼熱間鋼管、特殊鋼熱間鋼管、亜鉛メッキ鋼板、アルミはく、アルミ製建具、ガスこんろ、産業用アルミ製品、安全ガラス、タイル、ファインセラミックス(圧電機能素子)、ショベル系掘削機、軸受、軽乗用車、小型トラック、普通トラック、エアコン、電動工具、冷蔵庫、カーオーディオ、リチウムイオン蓄電池、カメラ、工業用計重機、分析機器、精密測定機、電子応用玩具、管楽器、繊維版・パーティクルボードなどとなる。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が14%以上減少した製品をピックアップすると、ニット製製品、酸化チタン、純ベンゼン、キシレン、エチレングリコール、二塩化エチレン、合成アセトン、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アスファルト、製紙用パルプ、乳幼児用紙おむつ、銑鉄、粗鋼、鋼半製品、普通鋼めっき鋼管、特殊鋼熱間鋼管、電気金、炭素製品、半導体製造装置、リチウムイオン蓄電池、クレーン、コンベヤ、カメラ、冷蔵庫、航空機用発動機部品などが挙げられる。
<勢い度のサイクルと株価>
モメンタムよりは需給要因が強い相場
株式市場はファンダメンタルズによるモメンタム相場ではなく、需給相場の様相を強めている。8月の株式市場はTOPIXが前月末比4.49%上昇と7月末の1.44%の上昇後も続伸となり、3ヵ月連続での高値更新となった。前年比のパフォーマンスではTOPIXが13.37%、日経平均が10.53%と2桁の上昇となり、7月からTOPIXの上昇率が上回り、割安な銘柄への物色が続いている。業種別株価指数でみると、前年比では非鉄がAIサーバー関連への物色意欲の高まりもあり前月比30.86%の上昇となった。米国のAI関連に比べバリュエーション面の割安感もあり、買い進められている。また、繊維の上昇率が前月比で10.55%となり、前年比でも26.31%の上昇で第2位のアウトパフォーマーとなっている。また、紙パルプが前月比7.62%の上昇となり、前年比では12.69%の上昇と前月比で第3位のアウトパフォーマーとなっている。その半面、前年比で下落となったのが化学(▲5.96%)と精密(▲9.46%)で、セクター、銘柄の選別色も強まった格好となった。
“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行う。6月統計では株価と勢い度の関係性が一気に回復したが、その度合いは従前に比べボラタイルになっている。7月統計の勢い度の低下を受けて株式市場がどのように反応するかは今後の相場形成の大きなポイントになろう。9月相場で調整基調となれば“勢い度分析”と株価の関係性を維持することになる。これまでの高値更新時のような需給相場が継続されるとなると、大幅な株価調整の先送りリスクを高めることになろう。

<勢い度分析による投資戦略>
短期的には加熱相場のガス抜き
製造工業生産予測指数からみると、7月の予測指数の実現率は▲2.7%と、6月の▲2.1%からやや悪化した。7月のセクター別実現率は非鉄が0.0%と唯一、予想の範囲に収まったが、電子部品・デバイスが▲9.7%となったのを筆頭に化学が▲4.1%、機械が▲3.4%、電機が▲2.8%など軒並み予想を下回った。大方の企業において駆け込み需要の認識のずれが6月に良い方向に動いたというポジティブなバイアスの反動が出たとみられる。
生産予測指数は8月+2.8%(従来は+0.8%)、9月▲0.3%となった。米国の相互関税率が15%への引き下げで合意されたことを受けての調査結果であるため、8月の見通しは輸送用機器が前月比+5.2%に好転し、機械が同5.5%と強気を維持する一方で、情報通信機械が▲13.9%となり、化学と電子部品・デバイスが共に▲0.8%となっている。9月は化学、電子部品・デバイス、情報通信機械が持ち直す見通しになっている。ウィンドウズ10のサポート終了を前に、パソコンの生産・出荷が7月にピークを迎えたとみられ、8月以降は米系大手スマホの新モデルの生産ピークを迎える季節性要因を織り込んでいると推察される。
個別製品での動きをみると、景気の先行指標となる伸銅製品の出荷が2ヵ月連続で前年同月比プラスとなり、遅効性のある研削砥石が出荷+3.0%、在庫▲4.6%と2ヵ月ぶりに回復初期の象限Ⅱに入り、国内産業景気の出荷・在庫循環は良化の方向に向かい始めているとも判断できる。
海外の要因としては米国の関税負担の影響が景気や物価にマイナス要因となることは言うまでもないが、その影響度合いが不透明である。また中国の景気も一部では8月初めの米中協議で関税の上乗せ分が90日間、再延長となったのを受け、繊維など一部の業種では生産活動が活発化している動きもあるが、依然として内需の低迷が続いている。中国の8月の製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)が49.4㌽と前月比+0.1㌽にとどまり、5ヵ月連続で好・不調の分かれ目の50㌽を下回ったままである。
こうした中で、半導体関連の一部では中国の減速リスクが顕在化してきている。7月統計では半導体製造装置の中国向け輸出の減速がみられるが、個別企業でも主にメモリー半導体で使用される高誘電材料(High-K)などの半導体材料で中国ローカル半導体メーカー向け比率が高水準にあり、これまで収益拡大の牽引役であったトリケミカル研究所(4369)が26/1期の業績見通しを下方修正している。今後もAI関連を含め高成長分野の減速リスクには要注意となろう。加えて、トランプ政権下で進められているロシアとウクライナの停戦合意など政策が順調とは言えず、地政学的なリスクを再燃・増強される可能性も考慮する必要があろう。
当分析では7月以降の株価の過熱感に対しては警戒感を持ってみてきたが。9月の株式市場は7月統計ベースの勢い度の急落に反応し大幅な下落で始まった。米国関税政策の影響は当初よりは軽減されているが、ファンダメンタルズ・業績への影響は10月以降に顕在化する公算が高い、足元の株価調整が大幅調整の序章ではなく、短期的な過熱のガス抜きであることを祈るばかりである。


補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。



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