CP&X Monthly Report 2025年8月号
- 黒澤真
- 8月5日
- 読了時間: 10分
| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2025年8月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
08/05/2025
Ver:20250805-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<8セクターの勢い度>
6セクターが上昇、産業景気の勢い度は5ヵ月ぶりに改善
勢い度分析25年8月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業25年6月速報をベースに算出)は全8セクター中、繊維、化学、鉄鋼、非鉄、機械・輸送用機器、電機・精密の6セクターが前月比上昇となり、紙パルプが横ばい、窯業・土石が下落となった。
4月に発表された米国の相互関税政策がその後、猶予期間が設けられるなどの変更もあり4~6月の国内生産活動に混乱をきたし、サプライチェーンの違いでその対応も異なった動きとなった。当6月の統計ではその動きがポジティブ方向に一気に噴出したとみられる。鉱工業出荷指数(原指数、前年同月比)では、6月の出荷が+3.8%と3ヵ月で最も高い伸びとなり、セクター別では機械、電機、情報通信機器の出荷が高い伸びとなり、電子部品・デバイスの出荷も増加に転じている。素材セクターは5月統計ではセクター全体の出荷指数がマイナスとなったが、6月にはプラスチック製品、金属製品がプラスに転じている。

<産業景気の勢い度>
8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は471.6と前月比85.2㌽の上昇となった。25年1月の戻り高値をピークにした低下基調が5ヵ月ぶりに下げ止まりとなった。電子部材、機械、情報通信機器の企業からは前倒し需要による予想以上に強い需要があったとのコメントが聞かれる。
鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が2.4%減から3.8%増となり、在庫指数は3.1%減から3.2%減となった。出荷・在庫循環は底打ち局面の象限Ⅰから拡大局面の象限Ⅲに戻った格好にある。各業種が在庫水準をコントロールすることで需給バランスを保っている状況が続いているが、この強いモメンタムが継続するかどうかはまだ不透明である。経済産業省も一進一退の基調判断を維持している。
<ポジティブ製品>
光ファイバー製品が高伸、繊維関連、伸銅製品、合成ゴムの良化は前倒し効果か
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、合繊紡績糸、ニット製品、複合肥料、純ベンゼン、スチレンモノマー、合成アセトン、ブタジエン、ウレタンフォーム、ポリアミド系樹脂成形材料、ふっ素樹脂、ポリエチレン、合成ゴム、合成洗剤、溶剤系・水系塗料、印刷インキ、工業用ゴム製品、鋼半製品、特殊鋼冷間仕上鋼材、亜鉛メッキ鋼板、銑鉄鋳物、伸銅製品、輸送機器用絶縁ケーブル、超硬チップ、汎用内燃機関、ショベル系掘削機、機械プレス、ダイヤモンド工具、エアコン、アルカリ電池、カメラ、分析機器などであった。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が10%以上増加した製品をピックアップすると、織物製外衣、純トルエン、エチレングリコール、二塩化エチレン、合成アセトン、フェノール、ポリビニルアルコール、日焼け止め化粧品、粗鋼、鋼半製品、鋼矢板、特殊鋼冷延鋼板、特殊鋼熱間鋼管、光ファイバー製品、ガス湯沸かし器、石油ストーブ、ファインセラミックス(パッケージ、圧電機能素子、センサー素子)、装輪式トラクター、旋盤、機械プレス、半導体製造装置、産業用ロボット、繊維機械、ポンプ、コンベヤ、一般冷凍空調用冷凍機、工業用計重機、カメラ、メモリー半導体、水晶振動子、コネクター、プログラマブルコントローラー、温水洗浄便座、乾電池、アルカリ電池、半導体・IC測定機、デジタルカメラ、カーオーディオ、デスクトップ・ノートPC、軽乗用車、軽トラック、普通トラック、二輪車、フォークリフトトラック、航空機用機体部品、ボールペンなどとなる。
<ネガティブ製品>
住宅・建材関連が低調
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、エチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、石けん、プラスチック建材、普通鋼鋼帯、特殊鋼熱間鋼管、ガラス短繊維、衛生用陶磁器、ファインセラミックス(一般構造材)、炭素製電極、建設用クレーン、冷凍・冷蔵ショーケース、ムーブメント、電子応用玩具、システムキッチン、管楽器などとなる。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が10%以上減少した製品をピックアップすると、再生・半合成繊維、製紙用パルプ、大人用紙おむつ、か性ソーダ、酸化チタン、石化用触媒、純トルエン、キシレン、アクリロニトリル、パラキシレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アンモニア、H形鋼、特殊鋼冷間磨帯鋼、亜鉛、タイル、炭素製電極、建設用クレーン、プラスチック加工機、鋳造装置、研削盤、カーナビ、航空機用発動機部品、ピアノなどが挙げられる。
<勢い度のサイクルと株価>
モメンタムが株価にキャッチアップ
株式市場はTOPIXが4月に前月末比0.32%上昇し、5月に5.03%、6月に1.83%と上昇してきたが、7月も3.16%の上昇と続伸となった。日経平均は4月に1.2%上昇、5月に5.33%上昇、6月に6.64%の上昇とパフォーマンスを高めていたが、7月末も1.44%の上昇と2ヵ月連続での高値更新となった。前年比のパフォーマンスではTOPIX、日経平均とも5%台の上昇であったが、7月末ではTOPIXの上昇が上回り、割安な好業績銘柄への幅広い物色となっている。業種別株価指数でも前年比では非鉄、機械、繊維の上昇率が高かったが、前月比では米国の関税交渉の進展から輸送用機器、非鉄、鉄鋼、窯業・土石、化学の上昇率が高まった。
米国の各国との相互関税個別交渉において日本の相互関税が15%に引き下げられるなど合意が進展し、先行きの世界景気の軽減をポジティブに捉えている。4~6月の決算発表では、6月の出荷水準が関税前の前倒しの影響で期初計画を上回り、4~9月期の業績見通しを上方修正する企業も散見されることや、米国のインフレと景気減速の懸念が想定内に収まっていること、その中で日本株の出遅れ、割安感から外国人買いが続いていることも作用している。
数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行う“勢い度分析”での投資判断とは前月まで乖離した動きにあったが、6月統計では株価と勢い度の関係性が一気に回復した。勢い度分析では、株価は景気のサイクルにし3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月間は上昇基調となる。直近での株価反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月であった)からとなるが、短期的にトランプ関税の不透明さから関係が乖離していたこともあり、当面はその関係性を取り戻すことになろう。
<勢い度分析による投資戦略>
短期的には強気も10月以降は要警戒
製造工業生産予測指数からみると、6月の予測指数の実現率は▲2.1%と6月の▲5.6%から改善した。6月のセクター別実現率は電子部品・デバイスが+10.8%となるも、電機が▲10.9%、情報通信機器が▲7.2%、機械が▲7.0%となった。大方の企業に駆け込み需要の認識のずれがあったが、6月は良い方向に動いたとみられる。生産予測指数は7月が+1.8%(従来は▲0.7%)と、これは関税率を15%に引き下げるとの合意の前の調査結果であるため、輸送用機器は7月▲5.5%、8月▲0.8%となり、電子部品・デバイスがそれぞれ+12.3%、+1.1%となっており、これらの予想よりは良くなる可能性がある。ただ、前倒しの反動やマクロ景気への影響が10月以降、どのように出てくるかを注視する必要があろう。

個別製品での動きをみると、景気の先行指標となる伸銅製品の出荷が1ヵ月で前年同月比プラスを回復。電子部品・半導体では固定コンデンサーが4ヵ月ぶりに生産増、コネネクターの生産が14.4%増となり、メモリー半導体が2ヵ月ぶりの出荷増となった。このような流れからの伸銅製品出荷好調の背景には半導体リードフレームなどに使用される銅条の需要増があり、電子部品の好調でポリアミド樹脂成形材料、エポキシ樹脂、フェノール樹脂やふっ素樹脂など、電子部品・半導体の製造工程で使用される高機能樹脂の出荷との好循環を形成し始めている。
半導体材料ではシリコンウエハやフォトレジストの需要が好調であり、4~6月の世界のシリコンウエハ出荷数量(面積ベース)は前年同期比10%増となり、AI関連半導体需要に支えられた300ミリウエハの出荷は同18%増となった。また、生成AIデータセンターへの投資意欲が旺盛であることの恩恵もあり、光ファイバー製品の出荷は前年同月比121.8%の高い伸びとなっている。
半面、ネガティブな動きとしてはタブレットPCやスマホ関連について、季節的な動きを含め前倒し需要の反動が出るとの見解も多い。また、建設機械やEVの需要の低調な見通しが出始めている。自動車関連では米国関税の影響だけではなく、米国のEV補助金廃止や中国のEV生産過剰に伴う価格競争、信用リスク(BYDの支払い期限延長要請に対し、「反不正当競争法」が10月から施行予定だが)などの影響も懸念される。
以上のように、4~6月決算においては業績に与える関税の影響が限定的となり、7月以降は慎重な企業活動の揺り戻しの動きや、各国との相互関税率の合意に伴う先行き不透明感の軽減などから、短期的には強気相場が継続する可能性はある。ただ、その持続性にはまだ懸念が残る状況であり、高値警戒注意報は一旦解除するものの、引き続き警戒が必要な状況と判断する。


補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。
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