CP&X Monthly Report 2026年9月号
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| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2026年9月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
9/03/2026
Ver:20260903-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<セクター勢い度と産業景気の勢い度>
セクター勢い度は上昇3セクター、下落4セクター
勢い度分析26年9月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業26年7月速報をベースに算出)では繊維、紙パルプ、鉄鋼の3セクターが上昇し、非鉄金属が横ばいとなり、残る4セクターが下落となった。前月には全8セクターが上昇となる異例の動きとなったことを考慮すると堅調な動きとなった。米国・イスラエルによるイラン攻撃から5ヵ月が経過し、ホルムズ海峡の封鎖状態に進展はないが、代替調達や輸送ルート変更が進み、製造業全体の動きが回復しつつある点が背景にあるとみられる。
8セクターのセクター勢い度を合算した産業景気の勢い度は531.0㌽と前月比18.2㌽の上昇となった。ホルムズ海峡封鎖前も在庫水準は適正水準かそれを下回る状況にあったが、7月統計では挽回生産・出荷もあり出荷の伸び率が相対的に前年比で高めの伸びとなったことから、産業景気の勢い度は2ヵ月連続で前月比増加となった。産業景気の勢い度が2ヵ月連続で500㌽台となったのは2021年7月、8月統計以来となる。
鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では、出荷が+2.9%から+4.8%となり、在庫指数は▲2.2%から▲2.0%と、前月に4ヵ月ぶりに出荷増・在庫減となった状況が持続している。出荷・在庫循環は回復象限のⅡから、収益・株価などのモメンタムが最も高まる拡大局面の象限Ⅲに入った。セクター別では電気機械、産業機械が拡大局面の象限Ⅲを継続し、鉄鋼が象限ⅡからⅢに入り、化学が象限ⅠからⅡに進み改善となった。繊維、窯業土石、金属製品、情報通信機が出荷減となるも、象限Ⅰ以上の好循環を維持している。

<ポジティブ製品>
鉄鋼製品の良化が寄与、石化基礎製品、樹脂の一部も改善基調
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、再生・半合成繊維、染色整理、情報用紙、自動車排ガス浄化用触媒、純ベンゼン、プロピレン、エチレングリコール、二塩化エチレン、粗鋼、H形鋼、普通鋼鋼板、特殊鋼熱間圧延鋼材、普通鋼冷延広幅鋼材、特殊鋼冷間仕上げ鋼材、ブリキ、石油ストーブなどであった。
生産・出荷が好調(前年比10%超の増加)であった製品をピックアップすると、塗工印刷用紙、合繊長繊維、銑鉄、粗鋼、H形鋼、普通鋼鋼板、普通鋼熱間鋼管、特殊鋼熱間鋼管、アルミ押出製品、光ファイバー製品、石油ストーブ、石油温水給湯暖房器、ファインセラミックス(パッケージ)、純ベンゼン、エチレングリコール、二塩化エチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、プラスチック製パイプなどであった。
加工・組み立て型業種では装輪式トラクター、ショベル系掘削機、旋盤、マシニングセンター、半導体製造装置、特殊鋼切削工具、ダイヤモンド工具、空圧機器、コンベヤ、一般空調用冷凍機、精密測定器、ロジック半導体、トランジスター、固定コンデンサー、電子回路基板、電子回路実装基板、プログラマブルコントローラー、セパレート形エアコン、リチウムイオン蓄電池、半導体・IC測定器、産業用テレビ装置、外部記憶装置、小形乗用車、普通トラック、航空機用発動機部品などが挙げられる。
<ネガティブ製品>
塗料が悪化、コンクリート製品が低迷
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、アクリロニトリル、ウレタンフォーム、ポリスチレン、合成洗剤、溶剤系合成樹脂塗料、水系合成樹脂塗料、プラスチック製容器、プラスチック製建材、小形棒鋼、普通鋼冷延電気帯鋼、ばね、ガラス長繊維製品、タイル、ファインセラミックス(圧電機能素子)、不定型耐火物などであった。
生産・出荷が低迷した(前年比8%超の減少)製品を挙げると、新聞紙、乳幼児用紙おむつ、電気銅、電気金、複層ガラス、道路用コンクリート製品、気泡コンクリート製品、ファインセラミックス(圧電機能素子)、苛性ソーダ、純トルエン、キシレン、合成アセトン、酢酸ビニルモノマー、フェノール、パラキシレンなどであった。
加工・組み立て型業種では建設用クレーン、印刷機械、化学機械、研削盤、専用機、機械プレス、ボイラー部品、試験機、メモリー半導体、液晶パネル、標準変圧器、蛍光ランプ、アルカリ蓄電池、基地局装置、デスクトップパソコン、ムーブメントなどであった。
(注)当月レポートより出荷・在庫循環の象限移動による良化・悪化製品の記載は素材産業のみとし、加工・組み立て産業は生産・出荷の増減に絞った記載とする。
<勢い度のサイクルと株価>
勢い度の株価下支え効果、循環物色で堅調
株式市場は日米による再度の協調介入も効果が限定的となり、米国・イランの停戦に向けた調停覚書による停戦期間交渉が不調に終わるも、相互の爆撃応酬などもなかったことも手伝って堅調な動きとなった。前月比では日経平均株価が3.03%の上昇と月末比較では2ヵ月ぶりにプラスとなったが、TOPIXが3.82%の上昇と日経平均株価を凌駕し、5ヵ月連続の上昇と物色の重心が主力の大型銘柄から出遅れのセクター・銘柄にかかる動きとなっている。業種別TOPIXでみると、前年比では非鉄の218.34%上昇、電機の67.08%上昇、窯業土石の56.85%上昇がインデクスに対しアウトパフォーマーとなったが、前月比では非鉄の16.77%上昇がトップであることには変わりはなく、繊維の8.17%、精密の4.57%、化学の3.42%、輸送用機器の3.13%がそれぞれベスト5に入るなどけん引役の入れ替えがあったことを物語っている。
4~6月決算がまとまり中東情勢の影響度合いが確認される中で、石化や繊維など素材関連で原料高に伴う値上げ効果に在庫評価益も加わって好業績となり、一部の企業では業績予想を上方修正したことも株価にプラスに作用したとみられる。AI・半導体関連企業も円安や需要好調による好業績から見直し買いが入ったことも寄与している。
“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行うものであるが、6月統計まででは株価、収益モメンタムの底打ち・回復局面となる象限Ⅰ~Ⅱを往来していた。しかし7月統計では前述のように収益・株価のモメンタムが最も高くなる象限Ⅲに入ったことは当面の株価上昇の下支え要因となる。


<勢い度分析による投資戦略>
短期的には循環物色で強含みも
4~6月期の決算における好業績の背景には、①中東情勢の緊迫化による市況先高感や調達懸念から電子部材を含め前倒しの需要があったとみられること、②原油・ナフサだけではなく原材料高が急速に進んだことから価格転嫁がこれまでにないスピードで進んだこと、③円相場が期初想定に比べ円安となり、輸出比率や海外生産比率が高い企業では円安効果が大きかったことなどの一時的な要因もある。
製造工業生産予測指数でみると、7月の予測指数の実現率は▲1.4%と6月の▲3.2%からは改善した。7月の実現率がプラスであったのは鉄鋼(2ヵ月連続)、情報通信機、電子部品・デバイスとその他の4セクターであったのに対し、機械の▲4.7%、石油製品の▲4.6%、電機の▲4.4%、非鉄の▲2.8%などが見通しに比べ悪い結果となった。今後の見通しは8月に前月比+8.4%(従来4.5%)と続伸が予想される一方、9月に同▲4.2%と減速が予想されている。8月にかけて電機が+15.1%、機械が+12.4%、非鉄が+5.7%、化学が+4.8%、輸送機器が+4.6%と強含みが予想されているが、9月にかけて続伸となるセクターはない。
産業景気の勢い度が500㌽台となり、出荷・在庫循環は象限Ⅲと収益・株価の両モメンタムの強い循環に入ってきている。産業景気の勢い度は経験則では600㌽台で一旦、ピークアウトする傾向にある。出荷・在庫循環も同じ象限に2ヵ月以上滞留することで確率が上がる傾向にある。このような点を踏まえても9月までの統計では好材料が続く可能性が高い。中期的には駆け込み需要の反動が出るとすれば10月以降となり、中東情勢が懸念材料となる。国内金利は上昇傾向となるが、それも長期かつ大幅な金融緩和の調整の範囲内での動きとなり、米国のFRBが予想に反してインフレ懸念から引き締め出る可能性が浮上してきたことは株価に対する新たな懸念材料となる。
ファンダメンタルズからはAIサーバー関連において市場予想を上回る受注が続いており、6月の世界の半導体販売額は前年同月比2.2倍増の高い伸びとなっている。半導体はAI関連需要だけではなくスマホ等でも使用され、不足感が増した汎用メモリーの増産を含め生産能力の前倒し建設の動きもあり、レジストやエッチング材料など前工程材料やパッケージ材料の引き合いも強く、世界的にシェアが高い国内半導体材料メーカーも先行きに強気になってきており、ADEKAはEUVレジスト向けの光酸発生剤の能力倍強計画の2年前倒しを決定し、また三井金属は高周波基板用銅箔「VSPTM」の生産能力増強への追加投資により能力を25年度比で2.4倍にすることを決定している。日本の関連材料企業の収益モメンタムに大きな問題はない。特に日本企業が過半のシェアを持つAI半導体の製造や生成AIサーバーの構築に使用される部材は、米国テック大手の投資スピードに全く追い付いていない状況を打破するだけであるからだ。当面はAI関連が好業績を背景に持たざるリスクを意識せざるを得ず、日本株で当面、相場の主役であることに変わりはないであろう。
中長期的な懸念材料は、中国が台頭するリスクをどの分野でいつ頃から織り込む必要があるかという点でなる。6月に世界の半導体販売額の伸びを支えたのは米国と中国の需要増であり、日本は39.2%増に甘んじている。またEV、フィジカルAIやペロブスカイト太陽電池など次世代成長分野でも後塵を拝しつつある。政府は概算要求において「強く豊かな日本」への10兆円の投資枠を設け、次世代のリーディング産業の支援に乗り出すが、その成果は時間を要し、成功の可否が不透明と言わざるを得ない。需給面では、外国人投資家の圧力や外国人買いによる資本効率要求から純利益のかさ上げが一巡した後の状況もまだ読み切れない。

補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。



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