CP&X Monthly Report 2026年5月号
- 5 日前
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更新日:19 時間前
| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2026年5月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
5/08/2026
Ver:20260508-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<セクター勢い度>
紙パルプが唯一、前月比低下に
勢い度分析26年5月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業26年3月速報をベースに算出)は全8セクター中、紙パルプが下落、鉄鋼、非鉄金属が横ばい、残る5セクターが上昇となった。前月は下落が5セクターであったのとは真逆の動きとなった。米国・イスラエルによるイラン攻撃に伴うホルムズ海峡封鎖に起因する原油高、石化製品を中心とする供給懸念に伴う前倒し需要を一部在庫で対応したことにより、見かけの需給の改善効果でセクター勢い度が強含んだ格好となった。
この結果、8セクターのセクター勢い度を合算した産業景気の勢い度は439.3と前月比95.7㌽の上昇となった。産業景気の勢い度が400㌽を超えるのは9ヵ月ぶりとなるが、前倒し需要と在庫削減効果の両面の影響が寄与したことが大きいと推察される。

鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では、出荷が▲0.1%から+2.0%となり、在庫指数は▲3.4%から▲4.9%となったことから、出荷・在庫循環では底打ちの象限Ⅰから回復初期の象限Ⅱに戻り、かつモメンタムは急回復となった。セクター別では鉄鋼、非鉄、プラスチック製品、紙パルプの出荷指数が前年同月比プラスに転じ、電気機械、電子部品・デバイス、自動車の出荷指数の伸びが高まっている。ナフサ不足による一部製品の目詰まりが謳われた化学の出荷指数は前年同月比▲4.7%と減少基調は変わらず、在庫指数が+1.3%から▲3.0%と在庫削減効果で勢い度が改善となったが、紙パルプも同様の動きであった。半面、自動車は軽自動車の出荷好調も中東向け輸出停止の影響もあり、出荷増を継続も在庫は▲8.8%から+5.2%と需給悪化となった。なお、在庫率指数が前年同月比マイナスに転じたセクターは非鉄、金属、化学、プラスチック、情報通信機械の5業種に及んでいる。
<ポジティブ製品>
石化製品などでの駆け込み需要、伸銅製品の改善
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、合繊短繊維、ニット製品。衛生用紙。複合肥料、苛性ソーダ、酸化チタン、カーボンブラック、純ベンゼン、パラキシレン、二塩化エチレン、合成アセトン、塩ビ樹脂、ウレタンフォーム、ふっ素樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、合成ゴム、石けん、界面活性剤、水溶性塗料、工業用ゴム製品、プラスチック製機械器具部品、プラスチック製日用品、雑貨、粗鋼、普通鋼鋼帯、特殊鋼熱間鋼管、電気金、電気銅、アルミニウム板製品、伸銅製品、セメント、気泡コンクリート製品、タイル、衛生用陶磁器、建設用クレーン、数値制御旋盤、マシニングセンター、研削盤、機械プレス、ダイヤモンド工具、軽乗用車、小型乗用車、電動工具、標準変圧器、食洗器、混成集積回路、ノートPCなどであった。
<ネガティブ製品>
H形鋼、特殊鋼が悪化
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、炭素繊維、新聞用紙、段ボール原紙、キシレン、カプロラクタム、H形鋼、特殊鋼熱間圧延鋼材、特殊鋼冷間仕上げ鋼材、亜鉛、スチール・ステンレス製建具、石油ストーブ、黒鉛電極、普通乗用車、小型トラック、複写機、デジタルカメラ、カーナビ、メモリー半導体、ロジック半導体、電子応用玩具、システムキッチン、繊維板、パーティクルボードなどであった。
石油・ナフサ関連の動きでは、ナフサの供給量は前年同月比24.4%減となり、プラスチック原料のエチレンの出荷量は同49.1%減、プロピレンが同38.8%減となった。その一方でシンナー関連のトルエンは同21.1%減となり、プラスチックのポリエチレンが同13.6%減、ポリプロピレンが同7.7%減となり、ポリスチレンは同2.5%増であった。3月は石化プラントの大型定期修理のタイミングであったが、供給の制約は在庫の取り崩しもあり軽微であったと推察できる。4月以降は定期修理明けのプラントの再稼働もあり、需要への対応は改善する方向にある。
<勢い度のサイクルと株価>
勢い度に上昇には一過性の要因も
株式市場は中東情勢の緊迫化による原油市況高に伴うスタグフレーションリスクの高まりも1ヵ月で回復基調となり新高値更新となった。ただ、日経平均株価が前月末比16.1%上昇となり、3月に4ヵ月ぶりに同13.56%下落となった分を取り戻した一方、TOPIXは同6.56%上昇となったものの3月の11.19%下落分をカバーしきれなかった。
日経平均株価の上昇は円安、半導体・AI関連の業績好調を受け、米国株式上昇の恩恵を受けた外国人投資家の一部の銘柄への買いによる偏った高値更新となった。業種別TOPIXでみると、光ファイバーやAIデータセンター向け部材関連の電線株の入る非鉄が31.66%の大幅な上昇となり、電気機械、窯業・土石が15%超の高い上昇でTOPIXを押し上げる格好となっている。半面、鉄鋼、紙パルプ、輸送用機器が下落しており、特に輸送用機器は20%弱の下落となった。
“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行ってきたが、足元の状況は株価の底打ち段階の象限Ⅰから回復局面の象限Ⅱに入るところでの一進一退の動きにあり、円相場が想定以上の円安であったことを除くと経験則からは上記のような株高を説明できない状況が続いている。ホルムズ海峡の実質的封鎖が長期化の様相を強めており、原油高による景気への影響が次第に企業業績に表れる可能性が高く、株価は一重にAI半導体・サーバーへの投資、それに伴う関連企業収益モメンタムの持続性に依存せざる得ない状況が続きそうだ。
3月統計での勢い度の改善には駆け込み需要という一過性の要因もあり、鉱工業出荷・在庫循環が持続的に象限Ⅲ~Ⅳの拡大局面への移行し、産業景気の勢い度が上昇と循環的な収益・株価上昇の相関関係を回復するかどうかの見極めがまだ必要なタイミングである。

<勢い度分析による投資戦略>
AI関連主導は変わらず、価格転嫁の度合いが鍵に
製造工業生産予測指数からみると、3月の予測指数の実現率は▲1.4%で2月の▲1.3%と同水準となり、製造業は中東情勢の動向を冷静に判断していたことになる。今後の見通しは4月が+2.1%、5月が+2.2%であり、4月の予想は+3.3%から下方修正となっている。
政府によれば原油・ナフサは中東以外からの調達により27年初めまでの必要量は確保できたとのことだが、ホルムズ海峡の実質的封鎖の長期化の公算が高く、中東の原油関連設備の復旧には数年かかるとのことで、市況高は当面続くことになる。世界経済の低迷によるスタグフレーションのリスクは拭い切れない。そうした中、国内ではポリエチレン、ポリプロピレン、塩ビ樹脂などのプラスチック、電子材料向けも含めたBtoBの石化原料やフィルム・容器などの樹脂加工製品の値上げが相次いでいるが、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩ビ樹脂は5月以降の2次値上げが公表されている。国内のプラスチックなどの価格算定基準となる国産ナフサ価格は1~3月が1キロリットル6.58万円に対し、4月以降は10.5万円~12.5万円への上昇が見込まれ、既に20%程度の値上げが発表されている食品容器なども6月以降には2次値上げが必至の状況にある。
26/3期決算の発表過程にあるが、石化関連製品の調達の目途が6月まで確約されたとは言えその先については不確実なことから業績見通しの公表を控える企業が散見され、業績見通しを公表している企業も原料高の影響をフルには織り込んでいない。よって、業績が株価に与える影響はまだ十分には織り込み切れていない。そのため4月~6月の決算発表を待つ必要があり、その間の中東情勢の緩和を想定した株価の織り込みには注意が必要となる。当月のセクター勢い度が横ばいであった鉄鋼や低下した紙パルプは2月までの値上げのアナウンスによる駆け込み需要の反動の結果であり、3月統計ではインフレ期待の高まりによって幅広い業種で駆け込み需要があったとみた方がよく、今後の勢い度には反動減となることも想定する必要がある。
中東情勢が3ヵ月内に収束するとすれば、収益への影響は値上げの浸透度合いにもよるが9月前後まで、つまり27/3中間期までの調整に収まる可能性が高いとする見方は変わりない。ただ、米国がホルムズ海峡封鎖の長期戦略を取り始めており、その影響は今27/3期下期以降に及ぶ可能性もある。インフレは株価にはプラスであるが、原油・ナフサ高の影響をどこまで価格転嫁できるかがカギとなる。
そうした中での唯一の明るさはAI関連需要となる。米国テック大手のAI関連投資が増額となっており、AIデータセンター関連の需要増の煽りを受け不足状態になって市況が急騰した汎用DRAMの増産と相まって、半導体大手は27年~28年の稼働に向けた新設・増設投資を拡大している。不足状態にある光ファイバーの原料となる合成石英のプリフォームに対する引き合いも急増している。AI関連が業績、株価の牽引役であることは変わりそうにない。


補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。
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