CP&X Monthly Report 2025年6月号
- 黒澤真
- 6月5日
- 読了時間: 10分
| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2025年6月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
06/05/2025
Ver:20250605-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<8セクターの勢い度><
加工・組み立てセクターが上昇も、素材4セクターが下落
勢い度分析25年6月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業25年4月速報をベースに算出)は全8セクター中、非鉄、機械・輸送用機器、電機・精密の3セクターが前月比上昇となり、繊維、紙パルプ、鉄鋼、窯業・土石の素材4セクターが下落となった。米国の関税政策の実施による自動車・同部品に対する影響は、国内での型式認定不正問題からの回復で相殺され、相互関税の上乗せ分の課税猶予もあり大きな反動減は無い動きとなった。そうした中で、繊維製品の出荷が減速する一方、パソコン、カメラや半導体の生産・出荷の伸びが高まっている。

<産業景気の勢い度>
前月比15.4㌽減と3ヵ月連続の下落に
8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は420.2と、前月比15.4㌽の下落となった。米国の関税政策実施前の駆け込み需要の反動減も大きくは出ていないが、繊維、鉄鋼製品の出荷が同政策の間接的な影響で減速し、4月の時点では高関税率がかかっていた中国での反動減が影響した可能性も推察される。産業景気は3ヵ月連続の下落も400㌽台を維持しており、相対的には堅調な動きにあると言える。
鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が0.3%減から0.2%増へと増加に転じ、在庫指数は0.7%減から0.8%減となった。出荷・在庫循環は調整最終局面の象限Ⅷから拡大局面の象限Ⅲに回復もモメンタムは弱い状況となる。セクター別鉱工業出荷・在庫指数で見た場合に出荷・在庫が好循環にあるのは繊維、金属、電子部品・デバイス、電機、輸送用機器の5セクター(前月は6セクター)となるが、そのうち出荷が前年同月比で増加しているのは電子部品・デバイス、電機の2セクターにとどまる。
<ポジティブ製品>
国内の半導体、リチウムイオン蓄電池が続伸、光ファイバ製品が高伸
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、織物製外衣、純トルエン、カプロラクタム、エチレン、ビスフェノールA、ウレタンフォーム、ポリカーボネート、合成洗剤、界面活性剤、水系合成樹脂塗料、小形棒鋼、特殊鋼熱間鋼管、特殊鋼冷間仕上げ鋼材、電気金、電力・電線用ケーブル、光ファイバー製品、電気用陶磁器、汎用内燃機関、ショベルトラック、マシニングセンター、機械プレス、ダイヤモンド工具、軸受け、自動車用照明器具、軽乗用車、小型トラック、冷凍・冷蔵ショーケース、セパレートエアコン、リチウムイオン蓄電池、などであった。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が7%以上増加した製品をピックアップすると、合繊長繊維織物、不織布、純ベンゼン、純トルエン、プロピレン、メタアクリル酸モノマー、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、合成洗剤、銑鉄、特殊鋼冷延鋼板、光ファイバー製品、ガス風呂がま、産業用アルミ製品、ファインセラミックス(パッケージ)、ファインセラミックス(圧電機能素子)、農機具、専用機、マシニングセンター、FPD製造装置、ロボット、繊維機械、複写機、カメラ、ロジック半導体、メモリー半導体、電子回路基板、プログラマブルコントローラー、セパレートエアコン、自動車用照明器具、乾電池、アルカリ電池、リチウムイオン蓄電池、半導体・IC測定器、基地局通信装置、デジタルカメラ、デスクトップPC、軽乗用車、軽トラック、二輪車、航空機用機体部品、航空機用発動機部品などとなる。
<ネガティブ製品>
繊維製品、合成樹脂の出荷が減速
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、合繊長繊維、合繊短繊維、再生・半合成繊維、紡績糸、不織布、塗工印刷用紙、か性ソーダ、酸化チタン、酢酸ビニルモノマー、エチレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、工業用ゴム製品、粗鋼、鋼半製品、普通鋼熱間鋼管、スチール/ステンレス製建具、飲料用アルミ缶、衛生用陶磁器、黒鉛電極、普通乗用車、普通トラック、標準変圧器、ビデオカメラ、混成集積回路、ノートPC、カメラ用交換レンズ、精密測定機などとなる。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が9%以上減少した製品をピックアップすると、再生・半合成繊維、合繊長繊維、製紙用パルプ、新聞紙、乳幼児用紙おむつ、か性ソーダ、酸化チタン、純キシレン、エチレングリコール、二塩化エチレン、合成アセトン、アクリロニトリル、酢酸ビニルモノマー、フェノール、ふっ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、日焼け止め化粧品、プラスチック製パイプ、粗鋼、鋼半製品、鋼矢板、H形鋼、小形棒鋼、冷間ロール成形鋼、亜鉛、機器用電線、電力用電線・ケーブル、飲料用アルミ缶、タイル、衛生用陶磁器、ファインセラミックス(構造材)、炭素製電極、ショベル系掘削機、半導体製造装置、超硬工具、金型などが挙げられる。
<勢い度のサイクルと株価>
トランプ政策のアナウンスメント相場の様相
株式市場はトランプ関税の発信、その後の交渉状況に一喜一憂する格好での右肩上がりの相場となっている。高率関税発動時の株価下落時に買うと、その後の関税切り下げ・猶予の決定を受けて上昇する形で、TOPIXが4月に前月末比0.32%上昇し、5月には5.03%の上昇となった。日経平均も4月に同1.2%の上昇となり、5月には5.33%の上昇となった。セクター別株価指数の5月のパフォーマンス(前月比)では、非鉄が+19.31%、機械が+11.10%と大幅な上昇となり、電機が+5.98%、化学が+5.60%、繊維が+5.59%、金属製品が+4.48%と続き、アウトパフォーマーとなっている。半面、下落したのは円高修正の一巡によって円高恩恵が縮小する紙パルプと、米国高率関税の影響が懸念される鉄鋼の2セクターだけとなっている。
“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行っている。当分析での経験則から株価は景気のサイクルに対し3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月は上昇基調となる傾向がある。株価の直近での反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月であった)からの上昇の調整過程にある。24年11月統計から自然災害等の影響が解消され、25年1月の統計からは巡航ベースの回復経路に入ったとの見方となる。ただ、上記のように株式市場は短期的にトランプ発言に依存する相場となっており、当面は勢い度分析を含めたファンダメンタルズの相場変動要因は機能し難い状況が続くことになろう。
今25年度のガイダンス開示では、大方の企業が直接的な影響をある程度織り込むも影響は軽微としている。また、マクロ的な影響は不透明感が大きく想定しにくいため、大方の企業が間接的なリスクを織り込まないでガイダンスを出している。各業種・企業の一致した見解としては円相場の前提を1ドル140円~145円とし、前年度比8円~12円の円高による影響から営業減益を見込む企業が過半数を占める点となる。
米国が掲げる国内生産増という最終目標に向け、個別製品毎の関税率での配慮や企業サイドの対応策が出揃うには時間を要し、後述するように前倒し、駆け込み需要の反動と相まって世界需要の減速による収益悪化のリスクにどう対応するかが今後の課題となる。

<勢い度分析による投資戦略>
短期的には堅調な相場も、中期的にはリスクの先送りに
米国関税の課税前の駆け込み需要、4月の相互関税の上乗せ分の実施の猶予、5月の自動車・同部品に対する課税、米中の大幅な関税引き下げ合意と毎月のように政策変更は実経済活動にも大きな影響を与えている。経済産業省・鉱工業統計では4月までの動きには駆け込み需要の影響は機械などの一部でみられる程度で大きくはないとみている。ただ、決算発表時の企業のコメントから察するにスマホやPCなどへの影響は大きくない、液晶テレビの米国の世界販売シェアは15%なので影響は大きくなく、楽観的な見方が出た半面、化学系商社からは4月以降、行き場を失った製品が市場に溢れているとの厳しいコメントもある。
中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)が5月に49.5と前月比0.5㌽の上昇も2ヵ月連続で好・不調の分かれ目となる50を割り、景気減速の懸念が高まっている。米国の関税引き下げも先行きの不確実性から取引を手控える動きが背景にある模様だ。
製造工業生産予測指数からみると、4月の予測指数の実現率は▲3.4%と3月の▲1.7%からマイナス幅が拡大しており、マクロ経済的には駆け込み需要の反動が出たと解釈できる。生産予測指数は25年5月が+9.0%(従来+3.9%)、6月が▲3.4%となり、米国関税の猶予期間での前倒し需要の効果を見込んだ見通しになっている。4月の実現率の悪さからは機械、電機で4月に反動減となり、5月、6月の予想値の動きからは機械、情報通信機械、電子部品・デバイス、輸送用機器で前倒しの生産・出荷の動きがあり、6月以降はそれが終息に向かうような動きになっている。これに対して、装置産業の素材セクターでは月による多少のバラつきはあるが、大きな変動は見られない。
個別製品での動きをみると、景気の先行指標となる伸銅製品が出荷3.5%増と堅調な動きとなり、拡大象限のⅢに進んでいる。そのけん引役になったのが半導体のリードフレームに使用される銅条の需要増であり、国内のメモリー半導体、ロジック半導体の出荷・在庫サイクルが3ヵ月連続で好循環となり、国内の汎用半導体メモリー市況が4月の大口取引で11ヵ月ぶりに上昇(約10%)している。減産による在庫調整と関税前の駆け込み需要の相乗効果の賜物でもある。
以上のように、足元の状況からは今後の4~6月決算では業績に大きな毀損を与えるような状況は回避できる可能性が高く、8月までの短期的には堅調な相場展開となる可能性が高い。ただ、米国関税の枠組みが最終的に決まる9月以降には世界的な景気の減速、業績悪化を先送りしたリスクの影響を考慮する必要が出て来よう。


補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。
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