CP&X Monthly Report 2025年7月号
- 黒澤真
- 7 日前
- 読了時間: 10分
| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2025年7月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
07/05/2025
Ver:20250705-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<8セクターの勢い度>
上昇は3セクターも産業景気の勢い度は4ヵ月連続減に
勢い度分析25年7月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業25年5月速報をベースに算出)は全8セクター中、繊維、鉄鋼、窯業・土石の3セクターが前月比上昇となり、紙パルプ、機械・輸送用機器が横ばい、化学、非鉄・金属、電機・精密が下落となった。前月比上昇したセクターは3セクターで変わりはないが、セクター間でばらける格好となり、総じて弱含みの展開となった。自動車・同部品に対する米国関税の実施の影響は、国内での型式認定不正問題からの回復や先行きの値上げに対する前倒し需要で相殺され軽微であったが、大方のセクターでは相互関税の上乗せ分の課税猶予期間に入ったことに伴う需要の前倒しは限定的となり、それまでの先食いの反動が出た格好にある。セクター別の鉱工業出荷指数(原指数、前年同月比)では、前年比プラスとなったのは機械、電機、自動車、情報通信機だけであり、素材セクターは全セクターがマイナスとなり、電子部品・デバイスの出荷もマイナスに転じている。
8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は386.4で前月比33.6㌽の下落となった。25年1月の戻り高値をピークに4ヵ月連続の低下となり、不況期入りを示唆するような動きになっている。
鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が0.1%増から転じて2.4%減となり、在庫指数は1.1%減から3.2%減となった。出荷・在庫循環は後退したものの、回復初期の象限Ⅱから底打ち局面の象限Ⅰに踏みとどまった。生産・出荷のモメンタムが上がらない状況下で、各業種が在庫水準をコントロールすることで需給バランスを保っているとも言える。

<ポジティブ製品>
合繊長・短繊維が良化、光ファイバー製品が続伸
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、合繊短繊維、合繊長繊維、綿・毛織物、乳幼児用紙おむつ、衛生用紙、酢酸ビニルモノマー、フェノール、エチレングリコール、ポリプロピレン、粗鋼、普通鋼鋼帯、普通鋼熱間鋼管、普通鋼冷延広幅帯鋼、気泡コンクリート製品、衛生用陶器、ファインセラミックス(構造材)、炭素製電極、研削砥石、建設用クレーン、普通乗用車、普通トラック、カメラ用交換レンズなどであった。
こうした中で、生産・出荷が(前年同月比)7%以上増加した製品をピックアップすると、合繊長繊維織物、大人用紙おむつ、メタクリル酸モノマー、フェノール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、銑鉄、粗鋼、特殊鋼冷延広幅帯鋼、特殊鋼熱間鋼管、光ファイバー製品、石油ストーブ、産業用アルミ製品、ファインセラミックス(圧電機能素子)、FPD製造装置、産業用ロボット、金型、冷凍機、カメラ用交換レンズ、ロジック半導体、コネクター、電子回路基板、プログラマブルコントローラー、マシニングセンター、食洗器、乾電池、リチウムイオン蓄電池、デジタルカメラ、カーオーディオ、デスクトップパソコン、ノートPC、軽トラックなどとなる。
<ネガティブ製品>
伸銅製品が悪化、炭素繊維が減少に
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、プラスチック製日用雑貨、ニット製外衣、新聞紙、情報用紙、アンモニア、複合肥料、窒素、純ベンゼン、純トルエン、プロピレン、カプロラクタム、ウレタンフォーム、ポリアミド系樹脂成形材料、ふっ素樹脂、ポリスチレン、合成洗剤、界面活性剤、溶剤系塗料、特殊鋼冷間仕上鋼材、亜鉛メッキ鋼板、アルミ板製品、アルミ押出製品、伸銅製品、ばね、ガスこんろ、ガス湯沸器、超硬チップ、セメント、汎用内燃機関、機械プレス、ダイヤモンド工具、エアコン、線形半導体回路、鉛蓄電池、カメラ、ガスメーター、専用機などとなる。
こうした中で、生産・出荷が(前年同月比)10%以上減少した製品をピックアップすると、紡績糸、炭素繊維、ニット製品、製紙用パルプ、酸化チタン、自動車排ガス用触媒、キシレン、二塩化エチレン、合成アセトン、アクリロニトリル、酢酸ビニルモノマー、ふっ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、アンモニア、複合肥料、石化用ナフサ、プラスチック製パイプ、鋼半製品、鋼矢板、H形鋼、中形棒鋼、小形棒鋼、亜鉛、超硬チップ、鋼索、飲料用アルミ缶、触媒担体、タイル、ファインセラミックス(一般構造材)、耐火レンガ、炭素製電極、炭素製品、装輪式トラクター、旋盤、機械プレス、カーナビ、航空機用発動機部品などが挙げられる。
<勢い度のサイクルと株価>
3ヵ月間、モメンタムとは乖離した上昇
株式市場は米国相互関税の各国との個別交渉が中国を含め進展し、イスラエルとイランの停戦合意と先行きの不透明感、不確実性の軽減を背景に株高を形成している。TOPIXが4月に前月末比0.32%上昇し、5月に5.03%の上昇となったが、6月も1.83%の上昇と堅調。日経平均に至っては4月に同1.2%上昇、5月に5.33%上昇し、6月も6.64%の上昇とパフォーマンスを高めている。6月末の日経平均株価は40,487.39円と11ヵ月ぶりの高値で終えている。
上記のように国内製造業の数量ベースのモメンタムは3ヵ月間、低調な中での株高となっている。この株高はファンダメンタルズの回復期待というよりは、地政学的なリスクの軽減に伴う株式投資へのリスクオンに伴う相対比較による日本株選考によるところが大きい。“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行っている。当分析での経験則から言えば株価は景気のサイクルに対し3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月は上昇基調となる傾向がある。株価の直近での反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月であった)からの上昇過程にある。24年11月統計から自然災害等の影響が解消され、25年1月の統計からは巡航ベースの回復経路に入ったとの見方となる。ただ、上記のように株式市場は短期的にトランプ発言などによるマニピュレーション相場や期待先行の相場形成となっており、当面は勢い度分析を含めたファンダメンタルズの相場変動要因は機能し難い状況が続くことになろう。米国関税政策に伴う反動減、中東情勢の緊迫化の再燃や収益モメンタムの悪化リスクが残る中では、このまま強気相場が継続するとは言い難いと判断する。
<勢い度分析による投資戦略>
高値警戒注意報を発令
米国関税政策は課税前の駆け込み需要、4月の相互関税上乗せ分の実施猶予、5月の自動車・同部品に対する課税、米中の大幅な関税引き下げ合意と変化しており、それによる実体経済へのイレギュラーな動きを与えている。5月は自動車・同部品への課税の一方で前倒し需要もあり影響は出ておらず、その反動減のリスクが残ったままである。幅広い製品で前倒し需要が出ていた中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)が6月に49.7と前月比0.52の上昇も3ヵ月連続で好・不調の分かれ目となる50を割り、景気減速の懸念が高まっている。
製造工業生産予測指数からみると、5月の予測指数の実現率は▲5.6%と4月の▲3.4%からマイナス幅が拡大した。5月のセクター別実現率は鉄鋼が0.0%となった以外は電子部品・デバイスの▲23.6%を筆頭に未達となり、大方の企業において駆け込み需要の認識が甘く、その反動への対応が遅れたことを示している。生産予測指数は6月が+0.3%(従来▲3.4%)、7月が▲0.7%となり、輸送用機器はマイナス基調と関税の影響を織り込んでいる見通しとなっているが、5月に実現率が大きかった電子部品・デバイス、電機、情報通信機が持ち直しを見込んでいる点は気になるところだ。
個別製品での動きをみると、景気の先行指標となる伸銅製品の出荷が前年同月比2.4%減と3ヵ月ぶりの減少となった。電子部品・半導体では固定コンデンサーが3ヵ月連続の生産減となり、半導体ではロジック半導体の出荷は好調を持続しているが、メモリー半導体が3ヵ月ぶりの出荷減となった。伸銅製品の減速はエアコンの不調が要因であり、半導体リードフレームなどに使用される銅条は需要増を維持しているがモメンタムは低下している。これを受け、ポリアミド樹脂成形材料やふっ素樹脂など電子部品・半導体の製造工程で使用される高機能樹脂の出荷もマイナスとなっている。加えて、消費関連の低迷の影響も垣間見える。プラスチック製フィルム・シートの出荷が0.6%であるが減少に転じ、飲料用アルミ缶の出荷も12.5%減となるなど、食品容器向け需要の低調さが出ている。
以上のように、足元の状況からは今後の4~6月決算では業績に大きな毀損を与える状況は回避できる可能性が高いが、その反動が9月以降に出て来る可能性が高まったことの裏返しでもある。足元の地政学的リスクの後退によりファンダメンタルズの改善期待に過熱感がある水準を超えようしている。4~6月決算発表となる8月までは堅調な相場展開となる可能性が高いが、当分析では“高値警戒注意報”を発したい。


補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。
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