| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2025年3月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
03/04/2025
Ver:20250304-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<8セクターの勢い度>
6セクターが上昇、うち5セクターが素材セクター
勢い度分析25年3月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業25年1月速報をベースに算出)は全8セクター中、繊維、紙パルプ、化学、鉄鋼、非鉄金属、機械・輸送用機器の6セクターが前月比上昇となり、窯業・土石が横ばいと自動車・同部材が前年の反動増もあり上昇となった。電機・精密のセクター勢い度は情報通信機器の生産・出荷が前年割れとなったことが影響した。

<産業景気の勢い度>
3ヵ月ぶりに高水準を回復
8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は497.2と、前月比106.3㌽の大幅な上昇となった。産業景気の勢い度は前年の自動車の型式認定不正や能登半島地震の影響を受けていたが、その反動増もあり自動車向け部材や建材が前年同月比で大幅な増加となった製品が多かったことから3ヵ月ぶりの高水準を回復している。産業景気のサイクルは24年7月統計ベースで25ヵ月の長期にわたるトンネルから脱した後、地震などの災害要因による下振れのイレギュラーな動きとなったが、23年12月統計から実勢ベースに戻り、緩やかな回復基調を取り戻した状況にある。
鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が2.7%減から2.0%増となり、在庫指数は2.0%減から0.5%増となった。出荷が増加に転じ、出荷・在庫循環は調整局面の象限Ⅷから一気に拡大成熟局面の象限Ⅳに入った。在庫が前年比増加となったのは、①これまで需要水準が一時的に抑えられ、それに合わせて在庫を抑制していた反動が出たこと、②自動車生産の回復に伴うもの、③機械の受注が底打ちしたことによるもの、と意図した在庫の積み上げでありネガティブなものではない。
セクター別鉱工業出荷・在庫指数では、化学、プラスチック、繊維、紙パルプ、非鉄、金属、電機、輸送用機器の出荷が前年同月比プラスに転じている。中でも自動車の出荷が前年同月比10.8%増と高い伸びとなったことが他のセクターにも好影響を与えた格好だ。ただ、基調済み前月比では鉱工業出荷・在庫指数が1.5%減、0.5%増と基調が強い訳ではなく、トランプタリフの影響による世界景気の先行き懸念が高まる中では、当月の勢い度の良化をまだ楽観視はできない。
<ポジティブ製品>
電子部品、自動車関連が持ち直し基調
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、再生・半合成繊維、紡績糸、染色整理、情報用紙、段ボール原紙、アンモニア、か性ソーダ、窒素、酢酸ビニルモノマー、合成アセトン、アクリロニトリル、ウレタンフォーム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、合成ゴム、塗料、H形鋼、小形棒鋼、亜鉛メッキ鋼板、銑鉄鋳物、特殊鋼熱間鋼管、伸銅製品、輸送機器用絶縁ケーブル、ばね、スチール・ステンレス製建具、気泡コンクリート製品、板ガラス、安全ガラス、専用機、マシニングセンター、軸受、軽乗用車、冷蔵庫、蛍光ランプ、デジタルカメラ、カーオーディオなどであった。
こうした中、生産・出荷(前年同月比)が10%以上増加した製品をピックアップすると、合繊長繊維織物、純ベンゼン、パラキシレン、ウレタンフォーム、プラスチック製強化製品、プラスチック製機械器具部品、粗鋼、鋼矢板、特殊鋼冷延鋼板、特殊鋼熱間鋼管、アルミニウム鋳物、光ファイバー製品、ガスコンロ、ガス風呂がま、石油ストーブ、超硬チップ、安全ガラス、ファインセラミックス(圧電機能素子)、食品加工機械、化学機械、専用機、FPD製造装置、産業用ロボット、ポンプ、複写機、混成集積回路、固定コンデンサー、コネクター、電子回路基板、開閉制御装置、温水洗浄便座、自動車照明器具、リチウムイオン蓄電池、固定通信装置、デジタルカメラ、カーオーディオ、軽乗用車、小型乗用車、軽トラック、フォークリフトトラック、航空機用発動機部品などとなる。
<ネガティブ製品>
炭素繊維、半導体製造装置が悪化、建機が低迷
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、炭素繊維、タフテッドカーペット、織物製外衣、ニット製品、塗工印刷用紙、スチレンモノマー、二塩化エチレン、ビスフェノールA、ブタジエン、ポリビニルアルコール、塩化ビニル樹脂、普通鋼鋼帯、特殊鋼熱間圧延鋼材、衛生用陶磁器、電気用陶磁器、建設用クレーン、数値制御旋盤、ダイヤモンド工具、二輪車、飲料用自販機、電動工具、クッキングヒーター、ビデオカメラ、精密測定器、電子応用玩具、管楽器などとなる。
こうした中、生産・出荷(前年同月比)が10%以上の減少となった製品をピックアップすると、織物製外衣、キシレン、エチレングリコール、アクリロニトリル、スチレンモノマー、フェノール、ポリビニルアルコール、日焼け止め化粧品、H形鋼、機器用電線、耐火レンガ、炭素製電極、装輪式トラクタ、ショベル系掘削機、印刷機械、プラスチック加工機、鋳造装置、機械プレス、半導体製造装置、繊維機械、汎用内燃機関、コンベヤ、精密測定器、カメラ、メモリー半導体、レーダー装置、ピアノなどが挙げられる。
<勢い度のサイクルと株価>
相対株価は素材優位、加工組み立てが劣位に
25年2月の株式市場は当レポートが懸念したトランプタリフの影響が米国景気指標に出たことなどから、月末にかけての下落により予想以上の低迷となった。TOPIXが前月比3.82%の下落となり、日経平均株価は6.11%の大幅な下落となった。セクター別株価指数で前月比上昇したのは鉄鋼の+3.64%だけであり、対TOPIXでアウトパフォームとなったのは電機▲1.28%、金属▲2.26%などにとどまった。これに対し、精密が▲12.41%、機械が▲7.86%、非鉄が▲7.32%とアンダーパフォーマーの下げが大きかった。トランプ政権下の全方位的な関税強化策から円高も進展し、加工組み立てセクターの株価下落が大きくなった。産業景気の勢い度と株価指数の動きが一致していないが、幸いにも個別セクターにおいて相関関係は保たれている。

“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行っている。当分析での経験則から株価は景気のサイクルに対し3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月は上昇基調となる傾向がある。直近の株価反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月)から上昇の調整過程にある。24年11月統計から自然災害等の影響が解消され、当月の分析データからは巡航ベースの回復経路に入ったという見方の確信が高まった。ただ、前月に「通常のパターンであれば25年9月前後までは上昇基調になるが、トランプ新政権下での関税政策による前倒し需要の反動や景気減速、インフレ再燃などの影響を考慮すると、現時点で短期的には上値の重い展開となろう」との見方を採ったが、2月に米国景気、物価の悪化懸念を強めるデータの公表が相次いだことなどから、株価の下押し圧力が予想以上に高まった。今後は米国が世界景気へのインパクトの見定めと、その調整期間の度合いを探る展開となろう。素材関連はその中でも影響度は小さいと予想するが、株価の面からは頭の重い状況が続くことになろう。
<勢い度分析による投資戦略>
国内自動車関連、電子部品・半導体部材の回復に期待も為替リスク
個別製品の動きをみると、景気に敏感な伸銅製品の出荷が前年同月比+0.7%と3ヵ月ぶりに増加に転じ、モメンタムは弱いが出荷・在庫サイクルで拡大局面の象限Ⅲとなった。景気に遅効性のある研削砥石も工作機械や産業用ロボットが持ち直し基調に入ったこともあり出荷▲0.5%、在庫▲2.3%と2ヵ月連続で調整最終局面の象限Ⅰにあり底堅さを増している。
半導体・電子部品関連でも明るさを増してきている。電子部品では固定コンデンサーの生産が前年同期比+13.6%、コネクターの生産が同+14.6%、電子回路基板の生産が同+10.4%と増加に転じている。光ファイバー製品の出荷は1月も同25.9%増であり、AIサーバー向けの需要とともに好調を持続している。10~12月期決算発表でもフジクラ(5803)が光ファイバー、コネクター需要の好調持続と、古河電工(5801)が光ファイバー製品の能力増強計画を公表している。データセンター向けの半導体基板用光硬化樹脂の生産を行う第一工業製薬(4461)は「来期に向けての顧客ガイダンスに基づく大きな伸びの見通し」に変わりはないとコメントしており、AI半導体の後工程材料の最大手であるレゾナックホールディングス(4004)も「25年のAI半導体関連材料の需要は上期に伸びが鈍化するも、通年での需要2倍増程度の見方には変化がない」とコメントしている。AI半導体、データセンター関連ではディープシーク登場の影響を懸念し、株価は調整しているのに対し、部材メーカーの需要見通しに変化はない。
製造工業生産予測指数からみると、1月の予測指数の実現率は▲3.1%と11月▲2.3%、12月▲0.5%からマイナス乖離が拡大しており、実勢ベースの動きを回復してきたが、基調済み前月比の動きと合わせても回復力は強くない。生産予測指数は25年2月が前月比+5.0%(従来+2.1%)、3月▲2.0%と先行きに対し強含みとは言い難い。セクター別の予想でみても、2月、3月と持続的な生産拡大が続くと予想しているのは化学と電子部品・デバイスだけとなる。
勢い度分析の出荷・在庫サイクルでは株価押し上げのサインが出ており、中長期的には買い場を探る段階と判断する。トランプタリフが懸念される自動車は国内の反動増もあり影響が緩和される可能性があり、自動車部品向け部材の樹脂加工、ガラス、ゴムなどの素材が相対的には優位なセクターとなろう。また半導体・電子部品関連の材料メーカーも相対的に優位な位置にある。ただ、リスク要因としては為替相場となる。大方の企業が25年1~3月の前提を1ドル150円台前半としており、足元の1ドル150円前後が続くと来年度上期の円安メリットが剥落する可能性があり、製造業の株価は当面、様子見の状況となろう。


補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。
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