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【CP&X Monthly Report】2025年2月号


 

 

 

| Title |

勢い度分析による産業景気と株価のサイクル

 

| vol |

2025年2月号

 

 

CP&X Investment Research

主席シニアアナリスト

 

Senior Analyst

黒澤 真

Makoto Kurosawa

 

| Date of Issue |

02/04/2025

 

 

 

Ver:20250204-1

 

 


 

 


 




 

 

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。

 

 勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。



<8セクターの勢い度>

上昇、下落が半々に


勢い度分析25年2月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業24年12月速報をベースに算出)は全8セクター中、繊維、窯業・土石、機械・輸送用機器、電機・精密の4セクターが上昇となり、残る4セクターが下落となった。前月までの超大型台風10号や「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」などの自然災害要因による影響が無くなり、巡航速度の動きを取り戻しつつある。ただ、自動車が型式認定不正問題の影響を完全に払拭できるに至らず、鉄鋼、非鉄、プラスチック、ガラスなど自動車関連部材の生産・出荷が前年比マイナス基調にある。また、回復が先行した電子部品・デバイスも本格回復に向けた踊り場にさしかかっている。そうした中で、遅れていた機械の回復感が高まりつつある。






<産業景気の勢い度>

前月比微増で、一進一退の状況


8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は390.9と、前月比6.9㌽の上昇となった。前月の産業景気の勢い度は自然災害等の反動増で実態以上の水準にあったことから下落したが、当月はその影響もなく実勢ベースに戻るも前月比微増となりモメンタムの弱さを示す格好となった。産業景気の勢い度は24年7月統計ベースでみると25ヵ月の長期に亘るトンネルから脱した後にようやく緩やかな回復基調を取り戻した状況にある。


鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が3.6%減から2.4%減、在庫指数が2.2%減から2.0%減と出荷減・在庫減が続いており、出荷・在庫循環は調整局面の象限Ⅷを継続している。セクター別鉱工業出荷・在庫指数では、機械(原指数、前年同月比)が出荷4.4%増、在庫2.8%減で出荷がプラス転換となり、拡大局面の象限Ⅲに入った。同様に好循環にある繊維、金属、電子部品・デバイスの3セクターが調整最終局面の象限Ⅰにある。


自動車が依然、回復途上にある中で、トランプ政権のカナダ、メキシコに対する関税政策の影響がどの程度であるかが産業景気の今後を大きく左右することは言うまでもない。

 



<ポジティブ製品>


繊維・アパレルの改善が目達


出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、合繊短繊維、ニット製外衣、織物製外衣、靴下、カーボンブラック、純トルエン、ポリカーボネート、ふっ素樹脂、普通鋼冷延広幅鋼帯、特殊鋼熱間圧延鋼材、アルミニウム押出製品、ガスコンロ、石油ストーブ、電気用陶磁器、炭素製電極、研削砥石、建設用クレーン、数値制御旋盤、小型乗用車、飲料用自販機、ガスメーター、ムーブメントなどであった。


こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が10%以上増加した製品をピックアップすると、炭素繊維、純ベンゼン、エチレングリコール、二塩化エチレン、パラキシレン、ふっ素樹脂、普通鋼鋼板、特殊鋼冷延鋼板、電気金、光ファイバー製品、ガス暖房機・風呂釜、電機陶磁器、ファインセラミックス(パッケージ)、ファインセラミックス(一般構造材)などとなる。

 


 

<ネガティブ製品>


建材、自動車関連の悪化が目立つ


出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、新聞紙、情報用紙、アンモニア、酢酸ビニルモノマー、キシレン、ポリエチレンテレフタレート、合成ゴム、石けん、プラスチック製建材、発泡プラスチック製品、特殊鋼熱間鋼管、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウムはく、機器用絶縁電線、電力用電線・ケーブル、スチール・ステンレス製建具、セメント、ショベルトラック、小型トラック、普通トラック、デジタルカメラ、中・小型液晶素子、混成集積回路、ノートPC、電子応用玩具などとなる。


こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が10%以上の減少となった製品をピックアップすると、再生・半合成繊維、ゴムホース、キシレン、合成アセトン、アクリロニトリル、酢酸ビニルモノマー、フェノール、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、アンモニア、酸化チタン、自動車排ガス浄化触媒、日焼け止め化粧品、中型形鋼、冷間ロール成形軽量形鋼、鉄骨、電気溶接棒、遠心力鉄筋コンクリートパイル、タイル、触媒担体・セラミックフィルター、耐火レンガ、時計、ピアノ、ボールペン、装輪式トラクター、印刷機械、プラスチック加工機、鋳造装置、研削盤、FPD製造装置、コンベヤ、エレベーター、ロジック半導体、メモリー半導体、大型液晶素子、水晶振動子、蛍光ランプ、配線器具、半導体・IC測定器、カーオーディオ、カーナビゲーションシステム、乗用車用エアコン、小型乗用車、軽トラック、小型トラック、航空機機体部品などが挙げられる。

 



<勢い度のサイクルと株価>


株価はトランプ・タリフの影響の見極めから上値の重い展開の継続か


25年1月の株式市場は当レポートの予想通り上値の重い展開となり、TOPIXが前月比0.13%の上昇となったが、日経平均株価は0.81%の下落となった。


セクター別前月比の動きでは繊維が3.19%、鉄鋼が1.90%、金属製品が1.83%、紙パルプが1.42%、精密が1.43%、機械が1.33%と上昇かつインデクスに対しアプトパフォームとなり、化学、窯業・土石、輸送用機器、電機の4セクターが前月比下落となった。12月には全セクターが前月比上昇となったが、トランプ新政権のメキシコに対する関税政策や、EV補助金の撤廃などによる自動車の先行き不透明感が重石となった。電機、化学セクターの株価下落は中国が開発した安価な生成AI・ディープシーク(DeepSeek)がEV同様にAI市場の競争激化要因となることを懸念し、その象徴的な企業であるエヌビディアの株価下落が大きく影響した格好だ。化学企業には最先端半導体や生成AI関連の部材シェアが高く、収益インパクトの大きな企業が多いことが影響している。トランプ新政権はカナダ、メキシコに対して25%の関税を課し、中国には追加関税10%を決定したほか、エネルギー資源、半導体など幅広い製品に関税を課す方針であり、需要、為替、景気、更には収益、株価に影響するだけに素材・製造業の株価はその織り込みに伴い引き続き上値の重い展開となろう。


“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行っている。当分析での経験則から株価は景気のサイクルに対し3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月は上昇基調となる傾向がある。直近での株価反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月)から上昇の調整過程にある。24年11月統計から自然災害等の影響が解消され、巡航ベースの回復経路に入ったと確認できたところにある。通常のパターンであれば25年9月前後までは上昇基調になるが、トランプ新政権の関税政策による前倒し需要の反動や景気減速、インフレ再燃などの影響を考慮すると、現時点で短期的には上値の重い展開となろう。トランプ新政権は関税負担は輸出国がするものであり、増産(原油など)すれば価格は下がりインフレにはならないとのスタンスであるが、当レポートでは関税によるインフレ再燃は景気にマイナスといえども影響度合いが定まった後には市況、企業収益、株価にはプラスに作用すると判断する。ここは冷静に足元の動向を見極め、その先をどのように予想するかが重要と言えよう。





<勢い度分析による投資戦略>

電子部品・半導体関連の回復に期待

個別製品の動きをみると、景気に敏感な伸銅製品の出荷が前年同月比2.6%減で2ヵ月連続の減少と回復力の鈍い状況を示す一方、景気に遅効性のある研削砥石は出荷5.4%減、在庫6.5%減と出荷・在庫サイクルで調整最終局面の象限Ⅰに入り、産業景気の底堅さを示している。これらの点から産業景気は一進一退の状況にあると言えよう。そうした中、光ファイバー製品の出荷が11月の前年同月比59.0%増に続き12月が同117.2%増、炭素繊維の出荷も同様に44.0%増、30.7%増と高い伸びを継続している。電子部品・半導体の生産ではコネクターが2ヵ月連続増となるも固定コンデンサーが1.2%増、水晶振動子が12.4%減、電子回路実装基板が8.6%減、メモリー半導体が22.9%減と低調な動きにある。これらの影響もあり電子部品・半導体向けに需要のあるエポキシ樹脂やポリアミド樹脂成形材料の出荷が前年同月比では減少傾向にある。明るい兆しとしては電子部品の先行指標的な動きを示すトランジスターが出荷9.3%減、在庫16.9%減となり出荷・在庫循環では4ヵ月連続で調整最終局面の象限Ⅰにある点が挙げられる。


製造工業生産予測指数からみると、12月の実現率は▲0.5%と10月の▲2.7%、11月の▲2.3%からマイナス乖離が縮小しており、実勢ベースの動きを回復してきたことが窺える。生産予測指数は25年1月が前月比+1.0%(従来+1.3%)、2月が+2.1%と堅調な予想にある。1~2月連続でプラスの予想をしているのは非鉄、電子部品・デバイス、情報通信機器、化学の4セクターにとどまる。中国の追加的経済対策の効果もあり10月以降、PMIが好不調の分かれ目の50を超えていたが、1月には4ヵ月ぶりに50を切っており、中国需要への依存度が高い製品を持つ企業には米国の追加関税との二重苦となる可能性もある。


米国の関税政策による自動車関連産業への影響は不透明であり、各社それぞれの対応を検討中である。メキシコに対する関税25%は日系自動車・部材企業にも少なからず影響が出るが、自動車産業のサプライチェーンは北米と6~7回行き来するケースもあり、そのたびに25%の関税が課されるとなると厳しい状況となろう。半面、メキシコ国内でサプライチェーンが完結する部材メーカーでは時給が米国の28ドルに対してメキシコは3ドルと差が大きいため、コスト面での影響は軽微との見方もある。グローバル生産体制を構築している企業では関税率やその他のコスト面を比較して最適な供給体制を採っている。


AI半導体・データセンター関連ではディープシークの影響を必ずしも悲観的には見ていない。最先端のAI半導体であるGPUの生産は需要に追いつかない状況にあり、中国以外にも生成AI関連の開発を手掛ける新興企業があり開発競争は不可避である。半導体材料大手の信越化学は「技術革新の促進は需要の増大に結びつくことを歴史が証明しており、悲観的に見ていない」とコメントしている。米国のメタなどIT各社や日本のソフトバンクグループが巨額のAI関連投資を計画しており、その恩恵によって最先端半導体やAIデータセンター関連部材の需要が押し上げられることは確実であり、年率30%超の成長が期待できよう。


勢い度分析の出荷・在庫サイクルでは株価押し上げのサインが出ており、中長期的には買い場を探る段階と判断する。中でも出荷・在庫サイクルが底打ちの象限Ⅰにある繊維、電子部品・デバイス、機械の3セクターが注目となるが、繊維は今後のモメンタム上昇に限界があり、株価は十分に織り込んだ水準と判断する。化学と窯業・土石セクターの株価は低調だが、化学の生産予測指数が今後、連続でプラスになり、半導体・電子部材関連の回復による収益貢献が見込まれることからも引き続き要注目となる。






 

補足:“勢い度”分析とは

鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。

縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。


一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。

8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。

(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)

 

留意事項

本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。

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