【CP&X Monthly Report】
| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2025年1月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
1/06/2025
Ver:20250106-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<8セクターの勢い度>
鉄鋼を除き反落
勢い度分析25年1月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業24年11月速報をベースに算出)は全8セクター中、鉄鋼を除く7セクターが前月比下落となった。前月は超大型台風10号の影響やそれを警戒した予防的な交通閉鎖に加え、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発令されたことによる混乱からトヨタなど国内工場の一時停止やエチレンプラントのトラブルなどの影響があったものの、解消され、全セクターの勢い度が上昇となる異例の動きにあったが、当月はその反動が出た格好となった。鉄鋼セクターの勢い度は前月比18.8㌽上昇し4ヵ月ぶりに50㌽以上を回復しており、アジア市況の低迷などから他のセクターに比べ調整が先行したことによる在庫調整効果が寄与している。半面、窯業・土石のセクター勢い度が35.0で前月比40.0㌽の下落という大きな落ち込み度合いとなり、これは安全ガラス、炭素製電極など大方の製品の出荷が前月の反動から減少に転じたことが背景にある。

<産業景気の勢い度>
前月比低下も、高水準を維持
8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は384.0と、前月比114.2㌽の下落となった。前月の産業景気の勢い度が反動増で実態以上の水準にあったことから下落幅が大きくなったが、過去4ヵ月の平均値414㌽からすると高水準であり、巡航速度ペースに戻ったと観ることが出来る。産業景気の勢い度は24年7月統計ベースでみると25ヵ月の長期に亘るトンネルから脱した後にようやく緩やかな回復基調を取り戻したことになる。
鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が0.4%減から3.8%減、在庫指数は1.3%減から2.1%減となり、出荷・在庫循環は回復初期の象限Ⅱから調整局面の象限Ⅶに後退している。生産・出荷の水準が前年同月に比べ低い状態にあり、最終需要やサプライチェーンの在庫水準によって変動しやすい状況にある。セクター別にみると、出荷指数が前年同月比プラスとなったセクターは情報通信機器だけであり、出荷・在庫循環が好循環に位置する調整最終局面の象限Ⅰにあるのは繊維、電子部品・デバイス、輸送用機器の3セクターだけである。
<ポジティブ製品>
合成ゴム、粗鋼などが好転、炭素繊維、ふっ素樹脂、光ファイバーなどの出荷が2桁増
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、新聞用紙、アンモニア、酢酸ビニルモノマー、キシレン、スチレンモノマー、二塩化エチレン、ブタジエン、合成ゴム、粗鋼、普通鋼鋼板、普通鋼鋼帯、特殊鋼熱間鋼管、特殊鋼冷間仕上鋼材、電力用電線・ケーブル、小型トラック、普通トラック、二輪車、アルカリ電池などであった。
こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が10%以上増加した製品をピックアップすると、製紙用パルプ、炭素繊維、石化用触媒、エチレングリコール、二塩化エチレン、スチレンモノマー、パラキシレン、ふっ素樹脂、アンモニア、石けん、アスファルト、銑鉄、特殊鋼冷延鋼板、特殊鋼熱間鋼管、電気金、光ファイバー製品、ガス風呂がま、産業用アルミニウム製品、ファインセラミックス(一般構造材)、半導体製造装置、超硬工具、コンベヤ、複写機、カメラ用交換レンズ、電気掃除機、自然冷媒ヒートポンプ式給湯器、半導体・IC測定器、デスクトップPC、ノートPC、外部記憶装置、航空機用発動機部品、管楽器などとなる。
<ネガティブ製品>
プラスチックフィルム・シート、研削砥石が悪化、建機の出荷が2桁減
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、再生・半合成繊維、染色整理、織物製外衣、衛生用紙、段ボール原紙、か性ソーダ、カーボンブラック、窒素、カプロラクタム、フェノール、アクリロニトリル、フェノール樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、合成洗剤、溶剤系合成樹脂塗料、水系樹脂塗料、プラスチックフィルム・シート、小形棒鋼、特殊鋼熱間圧延鋼材、銑鉄鋳物、電気銅、アルミニウム板製品、アルミニウム押出製品、伸銅製品、気泡コンクリート製品、安全ガラス、電気用陶磁器、不定型耐火物、炭素製電極、研削砥石、遠心力コンクリートパイル、はん用内燃機関、専用機、機械プレス、軸受、軽トラック、フォークリフトトラック、一般冷空調冷凍機、電気冷蔵庫、フラットテレビ、ガスメーター、電子応用玩具、繊維板・パーティクルボードなどとなる。
こうした中、生産・出荷(前年同月比)が10%以上の減少となった製品をピックアップすると、合繊長繊維、か性ソーダ、酸化チタン、自動車用排気ガス触媒、純トルエン、合成アセトン、アクリロニトリル、フェノール、塩ビ樹脂、ポリアミド系樹脂成形材料、仕上げ用化粧品、日焼け止め化粧品、プラスチック強化製品、工業用ゴム製品、鋼半製品、H形鋼、中形棒鋼、特殊鋼熱間圧延鋼材、ダイカスト、石油ストーブ、粉末冶金機械材料、安全ガラス、タイル、触媒担体セラミックフィルター、耐火レンガ、炭素製品、研削砥石、ムーブメント、装輪式トラクター、建設用クレーン、ショベル系掘削機、印刷機械、機械プレス、はん用内燃機関、油圧機、メモリー半導体、トランジスター、中小型液晶素子、プログラマブルコントローラ、リチウムイオン蓄電池、軽トラック、小型トラック、乗用車用エアコン、航空機機体部品などが挙げられる。
<勢い度のサイクルと株価>
株価は上昇基調も上値の重い展開か
24年12月の株価は米大統領選挙の影響による波乱相場から解放され、TOPIXが前月比3.77%、日経平均株価も4.45%の上昇となった。24年末の水準はTOPIXが前年同月比17.69%、日経平均株価が同19.20%の上昇となった。
セクター別の前月比の動きでは輸送用機器が18.38%、電機が5.23%、非鉄が4.0%、繊維が3.92%の上昇と、全セクターが上昇となった。輸送用機器における11月の日系自動車メーカー8社の国内生産は前年同月比14%減と低迷が続いているが、本田技研(7267)と日産自動車(7201)の経営統合やトヨタ自動車(7203)のROE20%超を目標とするとの公表を好感材料として株価が上昇したことが寄与している。24年一年間のパフォーマンスでは非鉄が50.04%、繊維が22.57%、機械が20.32%の高い上昇となる半面、鉄鋼が5.47%、紙パルプが2.08%で2セクターの株価が下落となった。非鉄ではAIサーバー需要による光ファイバー、コネクターなどの収益拡大が始まったフジクラ(5803)を筆頭に電線株が上昇したことが寄与した。
24年の市場における繊維、紙パルプ、鉄鋼、非鉄の株価はセクター勢い度の動きやファンダメンタルズに連動した株価形成の色彩が強いが、政策保有株式の削減、自社株買い・消却、増配などの株主還元策の強化に伴い低PBRが解消されたことによる株価押し上げ要因も大きく、地政学的なマクロ要因リスクを相殺した。今25年はセクター勢い度、ひいては産業景気の勢い度は上昇基調とはいえ緩やかであり、業績・ファンダメンタルズから上値の重い展開が予想される。

<勢い度分析による投資戦略>
出遅れ、割安な化学、窯業土石に注目
“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行っている。当分析での経験則から株価は景気のサイクルに対し3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月は上昇基調となる傾向がある。直近での株価反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月)から上昇の調整過程にある。24年10月統計において産業景気の反転を確認できるものの、11月統計の状況からは緩やかな回復となる公算が一段と高まった。現時点で短期的には上値の重い展開となり、その後25年9月前後までは上昇基調になると予想する。
個別製品の動きをみると、景気に敏感な伸銅製品の出荷が前年同月比4.0%減と減少に転じ、景気に遅効性のある研削砥石は出荷10.1%減、在庫2.2%減となり、景気モメンタムの足元の弱さ、先行きに対する伸びの鈍さが懸念される動きにある。そうした中、光ファイバー製品の出荷が59.0%増、炭素繊維の出荷が44.0%増と高い伸びを継続している。半導体・電子部品では固定コンデンサーの生産が3.1%減と減少基調にあり、電子回路実装基板の生産が減少に転じる中で、コネクターの生産が1.0%増と9ヵ月ぶりに増加となった。「ウインドウズ10が2025年10月14日でサポートが終了することを受け、パソコン向けのコネクター樹脂・ジェネスタの引き合いが強い」(クラレ)と言うようにノートPC、デスクトップPCの出荷(前年同月比)がそれぞれ22.6%増、24.2%増の高い伸びとなり納得できる動きになった。なお、電子部品の需給を表すトランジスターは出荷11.4%減、在庫12.1%減と3ヵ月連続で調整最終局面の象限Ⅰにある。
当面の動きを製造工業生産予測指数からみると、11月の予測指数の実現率は金属、機械、輸送用機器での悪さを背景に▲2.3%と10月の▲2.7%からマイナス乖離が縮小するも依然として不安定な動きにある。生産予測指数は24年12月が前月比+2.1%、25年1月が同+1.3%と持ち直し基調の予想にある。12月には鉄鋼、機械が強含みの予想にあり、1月には輸送用機器、電子部品・デバイス、非鉄、化学の強含みを予想している。これまでのサプライチェーン在庫だまりの元凶となっていた中国の経済活動が追加的な経済対策の効果もあり10月、11月に工業生産とPMIが2ヵ月連続で堅調に推移しているものの、次期トランプ政権が掲げる関税引き上げ前に駆け込み需要の増加があるとの懸念もあり、年明けにはその反動減のリスクを考慮する必要がある。その米国の景気は12月のPMIが56.6、前月比+1.7㌽と2年9ヵ月ぶりの高水準となり、製造業の景況感指数(ISM)も12月に49.3、前月比0.9㌽の上昇と9ヵ月ぶりの高水準と持ち直し基調にある。
以上の点から短期的に株価の持続的上昇には不透明感があるが、勢い度分析の出荷・在庫サイクルには株価押し上げのサインが出ている。中でも電子部品・デバイスの出荷・在庫サイクルが底打ちの象限Ⅰにあり、回復のタイミングを待つ情勢にある。化学株のパフォーマンスが前月比、前年同月比ともに低調なのは半導体・電子部材の調整が予想以上に長引き、信越化学工業(4063)などの半導体・電子部材関連の株価に調整、出遅れ感があったためである。これらを総合的に判断すると化学、窯業・土石セクター、中でも半導体・電子部材関連や自動車部材の回復による収益貢献が見込まれる低バリュエーション(ROE等の資本収益性との見合いが必要)銘柄に注目できよう。

補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。
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