【CP&X Monthly Report】勢い度 2025年4月号
- 黒澤真
- 4月7日
- 読了時間: 10分
| Title |
勢い度分析による産業景気と株価のサイクル
| vol |
2025年4月号
CP&X Investment Research
主席シニアアナリスト
Senior Analyst
黒澤 真
Makoto Kurosawa
| Date of Issue |
4/4/2025
Ver:20250404-1

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。
<8セクターの勢い度>
繊維が勢い度100を達成、機械・輸送機器が続伸
勢い度分析25年4月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業25年2月速報をベースに算出)は全8セクター中、前月比上昇の続伸となったのは繊維、機械・輸送機器、電機・精密の3セクターであり、窯業・土石が2ヵ月連続の横ばいとなった。セクター間での大きな変化はなかったが、繊維のセクター勢い度が100と全品種が好循環を達成したという特筆する動きとなった。国内での型式認定不正問題で低迷していた自動車関連産業のサプライチェーンの回復による反動増の側面もある。

<産業景気の勢い度>
前月比8.9㌽の下落と足踏み
8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は488.3と、前月比8.9㌽の下落となった。産業景気の勢い度は前年の自動車型式認定不正や能登半島地震の影響からの回復による持ち直しに加え、トランプ政権下での相互関税導入による全方位的な関税強化策に伴う駆け込み需要の一巡もあり、化学、鉄鋼、非鉄・金属の景気に敏感なセクターの勢い度低下が影響している。産業景気のサイクルは24年7月統計ベースで25ヵ月の長期に亘るトンネルから脱した後、地震などの災害要因による下振れのイレギュラーな動きからは脱却したが、まだ自律的な回復過程に入った状況ではなく、大きなサイクル面では一旦ピークアウトし、再調整に入るリスクも高まった感がある。
鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が2.1%増から1.5%増と伸びが鈍化し、在庫指数は0.6%増から1.4%減となり、出荷・在庫循環は拡大成熟局面の象限Ⅳから拡大局面の象限Ⅲに入った。勢い度分析では純ウォッチでのサイクルを想定しているが、この数ヵ月間は逆循環での在庫調整進展による回復が進んでいる。
セクター別鉱工業出荷・在庫指数では、繊維、紙パルプ、化学、非鉄、金属の出荷が前年同月比マイナスに転じている。繊維の勢い度が100と全品種の出荷・在庫循環が好循環に入ったことを示しているが、それもサプライチェーン在庫の目詰まり解消が要因となる。半面、出荷が前年同月比増加に転じたのは機械と電子部品・デバイスの2セクターとなるが、その伸び率は反動増を考慮すると小幅にとどまっている。なお、自動車の出荷指数は前年同月比14.5%増と伸び率が高まっている。
<ポジティブ製品>
国内半導体やリチウムイオン蓄電池に回復感
出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、銑鉄、鋼半製品、普通鋼鋼帯、特殊鋼圧延鋼材、炭素繊維、織物製外衣、亜鉛、アルミニウム板製品、アルミはく、ニット製品、塗工印刷用紙、酸化チタン、スチレンモノマー、ビスフェノールA、塩化ビニル樹脂、セメント、衛生用陶器、数値制御旋盤、機械プレス、乗用車用エアコン、特殊鋼切削工具、ダイヤモンド工具、普通トラック、二輪車、一般冷空調用冷凍機、電動工具、発光ダイオード、メモリー半導体、ロジック半導体、混成集積回路、ノートパソコンなどであった。
こうした中、生産・出荷(前年同月比)が10%以上増加した製品をピックアップすると、製紙用パルプ、酸化チタン、石油化学用触媒、純ベンゼン、ポリエチレン、アンモニア、合成洗剤、特殊鋼冷延鋼板、光ファイバー製品、安全ガラス、ファインセラミックス(ガスセンサー)、耐火レンガ、石油ストーブ、マシニングセンター、機械プレス、半導体製造装置、FPD製造装置、繊維機械、コンベヤ、一般冷空調用冷凍機、精密測定器、カメラ用交換レンズ、混成集積回路、ムーブメント、乾電池、アルカリ蓄電池、リチウムイオン蓄電池、半導体・IC測定器、基地局通信装置、カーオーディオ、デスクトップパソコン、ノートパソコン、軽/小型乗用車・トラック、乗用車用エアコン、フォークリフトトラック、航空機用発動機部品などとなる。
<ネガティブ製品>
伸銅製品、研削砥石が悪化
出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、粗鋼、H形鋼、小形棒鋼、普通鋼鋼板、普通鋼冷延電気鋼帯、アルミニウム押出製品、伸銅製品、輸送機器用絶縁ケーブル、飲料用アルミ缶、段ボール原紙、紙器用板紙、複合肥料、か性ソーダ、窒素、酢酸ビニルモノマー、合成アセトン、アクリロニトリル、ポリカーボネート、合成ゴム、石けん、印刷インキ、フィルム・シート、プラスチック製パイプ、気泡コンクリート製品、ファインセラミックス(構造材)、研削砥石、研削盤、軽乗用車、軽トラック、自然冷媒ヒートポンプ式給湯器、複写機、標準変圧器、電子応用玩具、システムキッチン、管楽器などとなる。
こうした中、生産・出荷(前年同月比)が10%以上の減少となった製品をピックアップすると、新聞用紙、キシレン、プロピレン、二塩化エチレン、合成アセトン、ブタジエン、スチレンモノマー、ポリカーボネート、複合肥料、粗鋼、H形鋼、中形棒鋼、普通鋼鋼板、機器用電線、電力用電線・ケーブル、鉄骨、産業用アルミ製品、タイル、電気用陶磁器、ファインセラミックス(構造材)、装輪式トラクター、ショベル系掘削機、食品加工用機械、研削盤、工業用計重機、メモリー半導体、プログラマブルコントローラ、標準変圧器、冷蔵庫、掃除機、ピアノ、管楽器などが挙げられる。
<勢い度のサイクルと株価>
調整リスクの高まりから弱気見通しに軌道修正
25年3月の株式市場は2月同様にトランプ政権下の相互関税導入による全方位的な課税強化の影響に対する懸念の高まりから月末にかけ急落となった。TOPIXが2月の前月比3.82%の下落に続き3月末も0.87%と小幅だが続落となり、日経平均株価は2月の6.11%に続き3月末も4.14%の下落となり、2ヵ月連続で10%超の大幅下落となった。セクター別株価指数で前月比上昇したのは繊維、窯業・土石、機械・輸送機器となり、鉄鋼だけであった前月よりは上昇セクターが増えた。一方、米国による鉄鋼、アルミ製品への追加関税の実施から鉄鋼の下落率が3.09%、非鉄が5.45%とが相対的に大きくなった。
トランプ政権下の全方位的な関税強化策の相次ぐ実施のたびに株価が乱高下する状況となり、産業景気の勢い度と株価指数の動きが一致していないが、個別セクターにおいては繊維セクターの勢い度と株価の動きの相関関係は幸いにも保たれている。

“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行っている。当分析での経験則から株価は景気のサイクルに対し3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月は上昇基調となる傾向がある。直近の株価反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月)から上昇の調整過程にある。24年11月統計から自然災害等の影響が解消され、25年1月の統計データに基づく勢い度からは巡航ベースの回復経路に入ったことの見方の確信が高まった。ただ、トランプタリフの影響は未だ完全に織り込んだ状況ではなく、その世界景気への影響つまりマクロ要因による株価の下落、調整リスクが当面、続くとの見方に変更せざるを得ない。株価下落のタイミングを見計らって買うという手法を繰り返しているが、その動きが下落、調整マグマをため込む結果ともなっている。
<勢い度分析による投資戦略>
6月まではアボイドに判断引き下げ
個別製品での動きをみると、機械では特殊鋼切削工具や数値制御旋盤の出荷が前年同月比プラスになるなど堅調な動きもみられるが、景気に敏感な伸銅製品と遅効性のある研削砥石の出荷・在庫サイクルの象限が再び悪化となった。電子部品・デバイスではメモリー半導体、ロジック半導体の出荷・在庫サイクルが好循環の象限を回復したが、メモリー半導体の出荷は前年同月比2桁減と需要の回復までには至っていない。電子部品では光ファイバー製品の出荷が1月の前年同月比25.9%増から2月は同56.0%増と伸び率を高める一方で、固定コンデンサーの生産が前年同期比で3ヵ月連続増加も1月の+13.6%に対し2月が+3.9%と伸び率が鈍化、コネクターの生産も同+14.6%から+7.2%に、電子回路基板の生産も同+10.4%から+5.7%にそれぞれモメンタムが低下している。
製造工業生産予測指数からみると、2月の予測指数の実現率は▲1.2%と1月の▲3.1%からマイナス乖離が縮小したが、生産予測指数は25年3月が前月比+0.6%(従来▲2.0%)、4月が+0.1%となっている。セクター別にみると4月に減速を予想するのは金属、電機・精密。機械・輸送機器の3セクターだけであり、自動車部品メーカーの爆発事故に伴う工場の生産休止や日本車に対する輸入関税の免除はないなどの影響をある程度は織り込んだものであるが、短期的にはトランプタリフによる世界景気の減速に伴う生産、出荷の下押しリスクを十分に織り込んでいるとは言い難い。国内生産活動の自律的な回復・拡大に入るにはまだ時間を要するとの判断に引き下げる。
勢い度分析による投資判断は「出荷・在庫サイクルでは株価押し上げのサインが出ており、中長期的は買い場を探る段階」との判断から「当分析が対象とする素材、加工組み立て産業の景気連動性の高いセクター・銘柄への投資は少なくとも4~6月決算が見える段階まではアボイド」との判断に引き下げる。今後、分析を加える必要はあるが在庫調整が主導した出荷・在庫循環と株価の動きは、リーマンショック後の動向と類似性があると想定している。


補足:“勢い度”分析とは
鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。
縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。
8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。
(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)
留意事項
本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。
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