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【CP&X Monthly Report】勢い度 2025年5月号

  • CP&X
  • 5月9日
  • 読了時間: 11分

 

 

 

| Title |

勢い度分析による産業景気と株価のサイクル

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| vol |

2025年5月号

 

 

CP&X Investment Research

主席シニアアナリスト

 

Senior Analyst

黒澤 真

Makoto Kurosawa

 

| Date of Issue |

05/02/2025

 

 

 

Ver:20250502-1


 

 


 



CP&X 勢い度レポート


 

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。

 勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。


<8セクターの勢い度>

2素材セクターが上昇

勢い度分析25年5月号におけるセクター別の勢い度(鉱工業25年3月速報をベースに算出)に関して、全8セクター中で前月比上昇となったのは紙パルプと窯業・土石の素材2セクターだけであり、機械・輸送機器、電機・精密の加工・組み立て型製造業が反落となるなど6セクターが下落となった。前月にあった国内での型式認定不正問題で低迷していた自動車関連産業サプライチェーンの回復のプラス効果は一巡したが、米国の関税政策実施前の前倒し需要が残っており、紙パルプを除くセクター勢い度が50㌽超と相対的に堅調な動きとなった。


CP&X勢い度レポート セクター勢い度

<産業景気の勢い度>

前月比52.9㌽減と2ヵ月連続の下落に

8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は435.4と前月比52.9㌽の下落となった。産業景気の勢い度は前年の自動車型式認定不正問題や能登半島震災の影響からの回復による持ち直しに加え、米国の関税政策実施前の駆け込み需要が減速したこともあるが、2ヵ月連続の下落も400㌽台を維持している。産業景気のサイクルは24年7月統計ベースで25ヵ月の長期に亘るトンネルから脱し、その後の地震など災害要因での下振れの動きからも脱却したが、自律的な回復過程には入り切れない状況にある。

鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が1.5%増から1.3%減と減少に転じ、在庫指数は1.4%減から1.0%減と減少基調を維持した。出荷・在庫循環は拡大局面の象限Ⅲから調整最終局面の象限Ⅷに後退となり、産業景気のモメンタムは減速している。勢い度分析では純ウォッチでのサイクルを想定しているが、この数ヵ月間は逆循環での在庫調整進展による回復が進んだ形からの仕切り直しとなり、今後は米国の関税政策による影響からの不規則な動きになることが予想される。

セクター別鉱工業出荷・在庫指数でみると出荷・在庫が好循環にあるのは繊維、金属、窯業・土石、機械、情報通信機器、輸送用機器の6セクターとなるが、それらのうち出荷が前年同月比で増加しているのは金属、機械、輸送用機器の3セクターにとどまる。半面、電子部品デバイスが出荷減に転じ、調整循環の象限Ⅷに後退している。

 

<ポジティブ製品>

国内の半導体やリチウムイオン蓄電池が2ヵ月連続でポジティブな動き

出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、再生・半合成繊維、複合肥料、か性ソーダ、窒素、酢酸ビニルモノマー、ポリビニルアルコール、ポリアミド樹脂成形材料、石けん、粗鋼、普通鋼鋼板、普通鋼熱間鋼管、アルミ押出製品、伸銅製品、ガス湯沸かし器、ガラス容器、自動販売機、標準変圧器、冷蔵庫、大型液晶素子などであった。

こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が7%以上増加した製品をピックアップすると、再生・半合成繊維、合繊長繊維、酸化チタン、石化用触媒、純ベンゼン、エチレングリコール、酢酸ビニルモノマー、アンモニア、鋼半製品、光ファイバー製品、アルミ鋳物、ファインセラミックス(パッケージ)、ファインセラミックス(圧電素子)、スチール・ステンレス製建具、石油ストーブ、マシニングセンター、半導体製造装置、電動工具、産業用ロボット、クレーン、カメラ、カメラ用交換レンズ、ロジック半導体、メモリー半導体、混成IC、コネクター、アルカリ電池、リチウムイオン蓄電池、基地局通信装置、デジタルカメラ、デスクトップPC、ノートPC、軽自動車、小型トラック、普通トラック、二輪車、フォークリフトトラック、航空機用機体部品などとなる。

 

<ネガティブ製品>

光ファイバー製品は出荷好調も在庫増で悪化に

出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、合繊短繊維、織物製外衣、ニット製製品、非塗工印刷用紙、純トルエン、スチレンモノマー、ビスフェノールA、ウレタンフォーム、塩ビ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、合成洗剤、プラスチック製機械器具部品、プラスチック製容器、普通鋼鋼帯、特殊鋼熱間鋼管、普通鋼冷延広幅帯鋼、特殊鋼冷間仕上鋼材、ブリキ、光ファイバー製品、炭素繊維、マシニングセンター、機械プレス、ダイヤモンド工具、軸受、自動車用照明器具、冷凍・冷蔵ショーケース、エアコン、蛍光ランプ、薄型テレビ、カーナビ、アルカリ電池、システムキッチン、繊維板・パーティクルボードなどとなる。

こうした中で、生産・出荷(前年同月比)が8%以上減少した製品をピックアップすると、合繊短繊維、乳幼児用紙おむつ、純トルエン、二塩化エチレン、合成アセトン、アクリロニトリル、スチレンモノマー、フェノール、ふっ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、タイル、ファインセラミックス(一般構造材)、H形鋼、小形棒鋼、普通鋼鋼板、普通鋼冷延広幅帯鋼、特殊鋼熱間鋼管、電気鉛、亜鉛、耐火れんが、炭素製電極、機器用電線、電力用電線・ケーブル、電気溶接棒、装輪式トラクタ、旋盤、機械プレス、FPD製造装置、はん用内燃機関、コンベヤ、自販機、水晶振動子、プログラマブルコントローラ、電気がま、蛍光ランプ、軽トラックなどが挙げられる。



<勢い度のサイクルと株価>

関税リスクの調整一波は峠を越すも

4月の株式市場はTOPIXが前月末比0.32%の上昇、日経平均が同1.2%の上昇となり、2月、3月と米国相互関税の影響を懸念した下落からは下げ止まりとなった。株価、ドル、債券のトリプル安から国別相互関税の90日間猶予など相互関税政策の影響を配慮した動きが寄与した。セクター別株価指数では、製造業で前月比上昇となったのは円高、原料安のメリットがある紙パルプだけであり、鉄鋼、アルミ製品への追加関税、自動車への25%関税が実施されたことから、鉄鋼が前月末比4.54%、非鉄が同5.25%、輸送用機器が同7.43%の下落となった。


“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性や相対株価との関係性から投資判断を行っている。当分析での経験則から言えば株価は景気のサイクルに対し3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月は上昇基調となる傾向がある。株価の直近での反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月であった)からの上昇の調整過程にある。24年11月統計から自然災害等の影響が解消され、25年1月の統計からは巡航ベースの回復経路に入ったことの見方となる。ただ、米国の関税政策は市場の反応により対処療法の様に変化しており、施行猶予期間内で課税方針が変わる可能性がある。そのため3月までとみられていた前倒しの需要も継続する可能性があり、サプライチェーンの対応も変わる可能性がある。産業景気の勢い度の動きと株価指数の動きが一致しない方向にあり、株価は地政学的なリスクで動き始めたと言えよう。


24年度決算発表が始まり、今25年度のガイダンス開示では大方の企業が直接的な影響をある程度は織り込むものの、マクロ的な影響は不透明感が大きく想定しにくいため、大方の企業がマクロリスクを織り込まずにガイダンスを出している。現状では米国関税の直接的な影響は限定的になる企業が多いが、サプライチェーンでは間接的な影響もあるだけに、今後の関税政策の対応を注視する必要がある。米国は国内生産増を最終目標としており、それに向けた個別製品毎の関税率での配慮や企業サイドの対応策が出揃うまでは膠着相場となり、その後にマクロ経済での影響を織り込む格好となろう。米国の関税政策による第一弾の株価調整は峠を越した感はあるが、6月までは膠着相場となり、その後のマクロ要因次第では更なる調整のリスクを持った状況と判断する。


CP&X勢い度レポート 株価指数

 <勢い度分析による投資戦略>

アボイドの投資判断継続も一部に明るさ

日本の製造業は、中国の4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が49.0と3ヵ月ぶりに50を切って景気減速の懸念が高まり、米国の25年1~3月のGDPが前期比年率0.3%減と3年ぶりのマイナス成長を記録するなど米国関税政策の影響が出始めているのに対しては堅調な動きにある。米中の足元の景気減速の影響は関税課税前の駆け込み需要の反動減によるところが大きく、米国のGDPマイナス成長は輸入増によるもので、本格的な関税の影響はこれから出る可能性が高い。


製造工業生産予測指数からみると、3月の予測指数の実現率は▲1.7%と2月の▲1.2%からマイナス乖離が拡大も小幅にとどまっている。生産予測指数は25年4月が+1.3%(従来+0.1%)、5月+3.9%と堅調な動きを予想している。セクター別にみると4月に減速を予想するのは金属製品、輸送機器の2セクターだけであり、自動車部品メーカーの爆発事故に伴う自動車工場生産休止などの影響をある程度は織り込んでいるとみられるが、米国関税政策に伴う生産、出荷の下押しリスクを十分に織り込んではいないように見える。言い換えれば影響は6月以降に出て来るとも読み取れる。


個別製品での動きをみると、特殊鋼切削工具や超硬工具の出荷が前年同月比プラスになるなど堅調な動きとなり、景気に敏感な伸銅製品が2ヵ月ぶりに出荷増となるなど機械・装置関連の需要(新規受注+更新需要)が堅調である。電子部品・デバイスはセクター全体では固定コンデンサー、水晶振動子などの減速で調整循環に後退したが、メモリー半導体とロジック半導体が2ヵ月連続で出荷・在庫サイクルが好循環となり、コネクターの生産が前年同月比19.0%増となるなど一部に明るさもある。


勢い度分析による投資判断は前月に「当分析が対象とする素材、加工組み立て産業の景気連動性の高いセクター・銘柄への投資は少なくとも4~6月決算が見える段階まではアボイド」との判断に引き下げたが、これを継続とする。ただ、ここにきて自動車部品への米国組み立て分での関税考慮やスマホ・半導体での個別枠での関税の検討と前月までよりは日本の製造業の強みを活かせる余地が高まったと言えよう。また前月のレポートで、在庫調整が主導した出荷・在庫循環と株価の動きではリーマンショック後の動きとの類似性があると指摘したが、株価の面では同様の動きとなるものの個々の製品の動きは異なる。リーマンショック時は川上の素材への影響が大きく、大方の素材で大幅減産となり、市況の下落となった。

今般の米国関税政策では需給の変動が自動車、モバイル機器など最終製品からの調整となり、川上の素材、部材への影響は遅れて出ることになり、スプレッド、収益性の悪化はリーマンショック時よりも限定的になる。その典型が石化製品であり、原油・ナフサ・エタン安と相まって塩ビ樹脂など一部の製品のスプレッドマージンが改善している点にも表れ始めている。日本の素材企業は半導体・電子部材や自動車関連部材で世界的に高いシェアを有しており、米国国内で素材から完成品までの製造業を垂直的に立ち上げる時間や技術的な難しさ、更には人件費の格差から、日本の部材製造業はグローバルサプライチェーンを更に強固なものにするチャンスともなろう。

 

CP&X勢い度レポート 産業景気の勢い度と株価


CP&X勢い度レポート セクター勢い度


補足:“勢い度”分析とは

鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。

縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。

CP&X勢い度レポート 収益モメンタムサイクル

一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。

8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。

(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)

 

留意事項

本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。

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