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【CP&X Monthly Report】2024年12月号          勢い度分析による産業景気と株価のサイクル



 

【CP&X Monthly Report】

 

 

 

| Title |

勢い度分析による産業景気と株価のサイクル

 

| vol |

2024年12月号

 

 

CP&X Investment Research

主席シニアアナリスト

 

Senior Analyst

Makoto Kurosawa

 

| Date of Issue |

12/03/2024

 

 

 

Ver:20241203-1

 

 


 




 

 

勢い度分析は鉱工業統計に採用される製品の出荷と在庫の循環を前年同月比でみることにより、関連セクターの収益・関連市況のモメンタムの動向を分析する。これに合わせて株価の位置を相対的に割高か割安かも比較することでセクターアロケーション、更には銘柄ピックアップの一助となることを目標としています。

 

 

<8セクターの勢い度>

生産・出荷活動の正常化もあり、前8セクターが上昇に

勢い度分析24年12月号でのセクター別の勢い度(鉱工業24年10月速報をベースに算出)は全8セクターが上昇となった。過去2ヵ月間は一時的な停滞要因があったが、10月統計では正常な活動に戻ったことが背景にある。8月統計では超大型台風10号の影響やそれを警戒した予防的な交通閉鎖に加え、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発令されたことによる混乱からトヨタなど国内工場の一時停止やエチレンプラントのトラブルなどの影響があったが、9月統計ではこれら一過性のネガティブ要因が解消されるも、円高の進展から輸出が伸び悩んでいた。






 

<産業景気の勢い度>

2ヵ月連続の上昇となり、3ヵ月ぶりの高水準

8セクターの勢い度を単純合算した産業景気の勢い度は498.2と、前月比174.1㌽の上昇となった。産業景気の勢い度は24年7月統計ベースでみると24年3月統計ベースでの二番底を経て25ヵ月の長期に亘るトンネルから脱するも、直近2ヵ月間は前述のような一時的なネガティブ要因から伸び悩みとなっていた。当10月統計では正常な経済活動を回復し、2ヵ月連続の上昇となり、3ヵ月ぶりの高水準を回復している。

鉱工業出荷・在庫指数(原指数、前年同月比)では出荷指数が4.2%減から0.6%増と増加に転じ、在庫指数は1.3%減から1.4%減となり、出荷・在庫循環は調整最終局面の象限Ⅷから3ヵ月ぶりに好循環の回復初期の象限Ⅱとなっている。

セクター別にみると、非鉄・金属、機械、情報通信機械、紙パルプ、プラスチック製品が前年同月比ベースで出荷増を回復した半面、電子部品・デバイスが出荷減に転じている。出荷・在庫循環でみると、化学、繊維、窯業・土石、電子部品・デバイスが調整最終局面の象限Ⅰ、金属製品、紙パルプが回復初期の象限Ⅱ、プラスチック製品、機械が拡大局面の象限Ⅲ、非鉄が拡大成熟局面の象限Ⅳにあり、残る鉄鋼、電機、輸送用機器が調整局面にある。

 

<ポジティブ・ネガティブ製品>

炭素繊維、光ファイバーの出荷が大幅増、伸銅製品が出荷増を回復

出荷・在庫サイクルで好循環の象限に移った良化製品を挙げると、再生・半合成繊維、染色整理、織物製外衣、衛生用紙、段ボール原紙、複合肥料、カーボンブラック、窒素、カプロラクタム、プロピレン、フェノール、エチレングリコール、アクリロニトリル、ポリカーボネート、石けん、水系合成樹脂塗料、プラスチック製建材、発泡プラスチック製品、特殊鋼熱間圧延鋼材、アルミニウム板製品、伸銅製品、機器用絶縁電線、光ファイバー製品、飲料用アルミ缶、セメント、気泡コンクリート製品、ガラス短繊維製品、研削砥石、はん用内燃機関、機械プレス、軸受、自動車用照明器具、普通乗用車、軽トラック、一般空調用冷凍機、電気冷蔵庫、デジタルカメラ、大型液晶素子、混成集積回路、ノートPCなどであった。

出荷・在庫サイクルで調整循環に後退した製品は、酢酸ビニルモノマー、キシレン、鋼半製品、電力用電線・ケーブル、普通トラック、カーオーディオ、メモリー半導体、ロジック半導体、電子応用玩具、管楽器などに限られる。

個別製品での特徴的な動きをみると、景気に敏感な伸銅製品の出荷が前年同月比3.3%増と3ヵ月ぶりの増加となり、景気に遅効性のある研削砥石は出荷0.5%減、在庫0.8%減と出荷の減少幅が縮小し、在庫が減少に転じ象限Ⅰの底打ちの好循環に入ってきている。光ファイバー製品の出荷が99.7%増、炭素繊維の出荷が61.5%増と高い伸びとなり、製紙用パルプ、ノートPC、大型液晶素子、デジタルカメラ、カメラ用交換レンズの出荷が2桁増となり、半導体製造装置、FPD製造装置が揃って大幅な生産増になっている。変動の大きくない製品でも、プラスチック製フィルム・シートの出荷が5.1%増、プラスチック製パイプの出荷が12.9%増となっている。

半導体・電子部品では固定コンデンサーの生産が3.4%減、コネクターの生産が1.3%減となったが、電子回路基板の出荷が2.0%増、電子回路実装基板の生産が4.6%増、スイッチング電源の生産が4.6%増と明暗が分かれる動きにある。ただ、電子部品の需給を表すトランジスターが出荷4.9%減も2ヵ月連続で調整最終局面の象限Ⅰとなっている。

 

<勢い度のサイクルと株価>

短期的には調整局面、年末から年始には再上昇も

株価は7~9月の円高進行による調整から10月の円安基調もあり日経平均株価で前月比3.06%、TOPIXで1.87%の上昇となった。11月は米大統領選挙で共和党のトランプ氏が再選され、関税引き上げに伴う強いアメリカの復活を好感してトランプラリーで始まったが、それも息切れとなりTOPIXが0.44%の下落、日経平均株価も2.27%の前月比下落となった。

セクター別の動きでは繊維が前月比7.61%の上昇と短期的には高いアウトパフォーマーとなっている。自己株取得を発表した東レ(3402)、好業績のセーレン(3569)、倉敷紡績(3106)などの上昇が牽引した。また、非鉄金属も3.95%の上昇となったが、古河電工(5801)、住友電工(5802)の好業績と光ファイバーのAIデータセンター関連需要への期待から急騰したことが寄与している。半面、輸送用機器が5.99%減とEV需要回復の遅れや、トランプ新政権下でのメキシコ、中国などへの関税引き上げ、日産の生産能力削減などの悪材料を織り込んだ格好となった。また化学も前月比4.98%の下落となり、住友化学(4005)、三菱ケミカルH(4183)、信越化学工業(4063)など大手の下落が顕著であった。原油安による石化関連の収益悪化や半導体需要の回復力の鈍さなどが懸念された格好だ。

足元の株価はファンダメンタルズというよりは地政学的なマクロ要因による上昇の反動の側面が強いとみられる。当レポートの勢い度では一過性のネガティブ要因が解消され、11月以降は戻り基調を予想してきたが、先行きの回復力は緩やかになるとの見方をせざるを得ない。また為替相場は1ドル150円台後半まで円安が進んだが、日銀の金融政策次第では再び円高基調になるリスク(当分析では1ドル145円前後を妥当レートと推計)を考慮する必要があることを指摘しており、短期的にはこれらのポイントに沿った円高、株価調整のタイミングにあると言えよう。株高を支えてきた外国人投資家が12月決算への対応を終えクリスマス休暇に入ることもあり年内は株価の押し上げ要因にはなり難い状況となっている。


 



 

<勢い度分析による投資戦略>

半導体・電子部材関連のバリュエーション調整に注目

“勢い度分析”は数量ベースの出荷・在庫循環及びそのバランスから収益モメンタムの立ち位置を確認し、その方向性と相対株価との関係性から投資判断を行っている。当分析での経験則から株価は景気のサイクルに対し3~4ヵ月先行し、産業景気の勢い度サイクルの上昇に対して株価は最短でも9ヵ月は上昇基調となる傾向がある。株価の直近での反転時期は23年12月前後の二番底(一番底は23年4~6月であった)からの上昇の調整過程にある。24年10月統計での産業景気の反転を機に再上昇の機をうかがうタイミングにあり、現時点では25年9月前後までは上昇基調と予想する。

当面の動きを製造工業生産予測指数からみると、10月の予測指数の実現率は化学、非鉄、電機の実現率の悪さを背景に▲2.7%と9月の▲1.4%からマイナス乖離が拡大する傾向にあり、24年11月の生産予測指数は前月比▲2.2%、12月が同▲0.5%と持ち直し基調も弱含みの予想にある。11月には紙パルプ、化学が強含みの予想にあり、機械、電子部品・デバイス、輸送用機器の減速を予想している。12月は鉄鋼が持ち直すも、機械、輸送用機器、情報通信機械、電子部品・デバイスが続落の予想となっている。

ファンダメンタルズ面からは日銀が金融引き締めを継続し、米FRBも予防的な側面から金利の引き下げを継続する可能性が高く、短期的には円高局面が予想される。また、25年1月に発足するトランプ次期政権の下では関税の引き上げや対中輸出規制の継続から強化の動きとなる可能性が高く、自動車や半導体関連での影響が懸念される。これまでサプライチェーンの在庫だまりの元凶となっていた中国の経済活動が追加的対策の効果もあり10月、11月と2ヵ月連続で堅調(PMIが2ヵ月連続の50超)に推移しており、繊維や化学などの素材産業にとっては業績の下支え要因となる。

主要企業の業績は7~9月決算がまとまり強弱相まみれる結果となったが、円高を前提にしても総じて堅調な見通しにあり、製造業では繊維、化学、非鉄金属、電機、精密機器が25/3通期では経常2桁増益を見込む。半面、鉄鋼、石油、自動車・部品が経常2桁減益を予想しており、製造業全体で経常減益の見通しにある。

以上の点から短期的に株価の持続的な上昇には不透明感があるが、勢い度分析の出荷・在庫サイクルからは伸銅製品の良化、遅効性のある切削工具類の底打ちと日本の産業景気は正常な活動を取り戻し、持ち直し基調となるサインが出ている。また半導体、電子部品も出荷・在庫循環では回復第一波の踊り場にあるが、底打ちの象限に入りつつあり、回復のタイミグ待ちの情勢にある。半導体・電子部材関連株の株価はバリュエーション面では底値に近い水準まで来ており、下押しリスクは軽減されている。これら素材セクターではPER、PBR、配当利回りなどのバリュエ―ション面で割安な銘柄も多い繊維株が上昇したように、当面は化学、窯業土石を中心とした低バリュエーション(ROE等の資本収益性との見合いが必要)にある銘柄の選別の好機と判断する。

 










 


 

補足:“勢い度”分析とは

鉱工業統計の算出対象製品の出荷・在庫の前年同月比の相関関係を8つの象限に分け、製品需給による収益モメンタムを推計。その8つの象限と市況、株価との相関関係を見ることで素材セクターへの投資タイミングを計ることを目的に開発した。

縦軸に出荷の前年比、横軸に在庫の前年比をとり出荷と在庫の相関関係を象限Ⅰ~Ⅷに分類し、関連企業の株価、製品市況との関係性を検証。その結果、象限Ⅰ(出荷の前年比減少率<在庫の前年比減少率)は在庫調整が完了し、市況が下げ止まりから値上げが可能な環境が整い、収益モメンタムも底打ちとなり、株価も底打ちの可能性が高まる。回復・拡大サイクルのボトムとなる。



一方、象限Ⅴ(出荷の前年比増加率<在庫の前年比増加率)は意図しない在庫の積み上がりにより、収益モメンタムがピークアウトの確率が高い状況で、株価もピークとなる確率が高い。以上のような手法から、象限Ⅰ~Ⅳが底打ちからピークの好循環、その反対側に位置する象限Ⅴ~Ⅷが調整サイクルと定義する。セクター勢い度は各セクターのサンプル製品の中で、象限Ⅰ~Ⅳに入っている製品の単純な構成比で表わされ、各セクターの勢い度は温度計のようにゼロ~100の間で変動、その数値の高いほどモメンタムが強いことを示す。当分析では素材6セクターと加工・組立産業を機械・輸送機器と電機・精密の2セクターに大別し、合計8つのセクターの勢い度を毎月算出している。

8つのセクター勢い度の単純合算値を産業景気の勢い度として算出(0~800の間で変動)し、製造業全体の勢い度として株価指数全体との比較に使用している。

(分析、筆責:黒澤 真、CP&X)

 

 

 

留意事項

本資料は、情報提供のみを目的として各種のデータに基づき作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点の見通しであり、予告なしに変更することがあります。この資料の著作権はCP&X Investment Researchに帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送、配布、配信等を行わないようお願いいたします。

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